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PRP療法
Platelet Rich Plasma:自家多血小板血漿)
について

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この度,川田整形外科では2021/8/25から再生医療の一つであるPRP療法の治療を開始しました.第2種・3種再生医療技術の認可を取得することにより関節内・関節外(筋・腱・靭帯など)へのPRP治療が可能になりました.高知県内のクリニックではPRP療法の導入は初めてになります.再生医療をより身近に行えるようになりましたのでご興味のある方は下記の内容をご覧になりご検討ください.

1.PRP療法とは


PRP療法(Platelet Rich Plasma:プレートレットリッチプラズマ,多血小板血漿)とは,血液に含まれる濃縮した血小板を含んだ血漿を(多血小板血漿)を治療部に用いる再生医療の一つです.多血小板血漿は読んで字のごとく『多くの血小板を含んだ血漿』を意味します.
 患者様ご自身の血液を特殊な装置で遠心分離させると血球成分(赤色)と血小板を含んだ血漿成分(PRP:黄色)の2つに分かれます.これらの分かれたのものから血小板を含んだ血漿を取り出して,患部へ注射します.

PRPの主な効果は「組織修復」と「抗炎症」とされています.これらの作用には先程の血小板が重要な役割を担っています.血小板は血液を固まらせる役目の他に、成長因子 (細胞の増殖に関わるタンパク質)を主とする組織修復のプロセスに重要なタンパク質が豊富に含まれていることが知られています。
 

​濃縮した血小板を含んだ成分(PRP:黄色)

人間には本来自然治癒力が備わっており,傷を修復する能力が備わっています.血小板にはこの組織を修復するための成長因子を放出する役割があるため,この機能を使って人間本来の治癒力をより促すことがこの治療の目的になります.濃縮した血小板を用いることで組織の修復,治癒までの時間が短縮されることが期待されます.

PRPにはいくつかの種類があり白血球の量や抗炎症サイトカインの濃度などによって種類が分けられます.


1.P-PRP(pure PRP):白血球を含まないPRP
2.LP-PRP(leukocyte-poor PRP):少量の白血球を含んだPRP
3.LR-PRP(leukocyte-richr PRP):白血球を多量に含んだPRP
4.APS(autologous solution)自己蛋白質溶液:LR-PRPに脱水処理を行うことにより抗炎症サイトカインの濃度を高めた「抗炎症作用に特化したPRP」

白血球の含有量が少ないとPRP後の腫脹,熱感,疼痛などが抑えられるメリットがあります.一方で白血球が多いPRPでは効果が長く続くことが報告されています.またAPSは次世代のPRPとも呼ばれており抗炎症効果は高い特徴がありますが,費用が高価なため患者さんの負担が大きくなります.

PRP療法は1回の治療のみで完治しない場合もあります.先行研究では複数回の治療を行う事により治療効果が高く,PRPの回数に比例して組織の修復や抗炎症作用が存続することが示されています.これらにより,膝関節の変性を遅らせることに寄与する可能性があるとされています.Sánchez M,etc. Platelet-rich plasma injections delay the need for knee arthroplasty: a retrospective study and survival analysis. Int Orthop. 2021 Feb;45(2):401-410.
 

川田整形外科ではArtrex社のACP Double Syringeを使用しています.ACP(Autologous Conditioned Plasma)は自家調整血漿の意味で,これらは”pure PRP”に分類されます(白血球を含まないPRP).ACPでは血小板を2~3倍に濃縮し,かつ赤血球と好中球を平均99%除去します.

 

これらをPRPとして投与することで血小板が血管外で活性化し,成長因子であるタンパク質を放出します.これらのタンパク質には軟骨保護に働くIGF-1,TGF-β,pg4などや炎症抑制に働くTGF,PDGF,HGFなどがあり,それらの成長因子が相乗的に作用することで炎症の改善,痛みの緩和,軟骨破壊の抑制などに効果があるとされます.

変形性関節症等の慢性関節炎を生じている場合,分子レベルで組織修復のバランスの破綻が生じることで疼痛やさらなる関節の変形が促進される負のサイクルが発生しており、そこには関節内のタンパク質のアンバランスや異常な細胞代謝が関係していることが知られています。

膝関節が炎症を起こすと炎症成分(IL-1,TNFαなど)により,細胞が関節軟骨の破壊(軟骨破壊成分MMPによる)や更なる炎症症状を悪化させます.また過剰な炎症状態が続くと細胞死も増加します.
 

炎症を起こすと炎症成分(IL-1,TNFαなど)により,NF-kBシグナル伝達経路(破壊成分を作り出す仕組み)が活性化され,軟骨破壊成分(MMP)や炎症成分が作られ負のスパイラルが繰り返されます.
 

本治療では、関節内にPRPに含まれる生体内のバランスを保った状態の成長因子等を注入することで、変形性関節症・関節内軟骨損傷・半月板損傷・関節内靭帯損傷・関節炎において生じるタンパク質のアンバランスを緩和し、慢性的な炎症やそれによって発生する病的な炎症を引き起こす仕組み(NF-kBシグナル伝達経路)を抑制し,炎症・疼痛の軽減,組織分解抑制ひいては組織修復を促すことを目的としています。
 

PRPにより,NF-kBシグナル伝達経路(破壊成分を作り出す仕組み)が抑制されることで軟骨破壊成分や炎症が軽減し負のスパイラルから脱却できます.また,正常化した細胞は関節軟骨の保護にも役立ちます.
 

2.PRP治療の対象者

本治療の対象となるのは、以下の基準を満たす患者様です。

1)外来通院可能な方

2)本治療について文書による同意をされた方(未成年の場合は代諾者の同意が必要です)

3)全身的な健康状態が良好である方

4)15歳以上の方

 

また、次の各項目に1つでも当てはまる場合は治療を受けていただくことができません。

1)抗凝固剤の使用中の方

2)血小板減少症等出血性素因がある方

3)貧血の方

4)重篤な感染を有している方

5)易感染性宿主(糖尿病・免疫不全・慢性腎不全・肝硬変の方)

3.PRP治療の流れ

PRP治療の実施は火曜・木曜の15:00からの予約制になります.

​実施に当たっては事前に主治医の診察が必要になります.膝関節専門外来は月・水・金曜日になります.まずは気軽にPRPについて聞きたいことなどを診察時に主治医までお問い合わせください.

本治療は、①末梢血の採血、②PRP作製、③PRP注射の段階で行われます。


 

1.末梢血の採取

  患者様の腕より、注射針を接続した注射器を用い15mL採血します。

2.PRP作製

  採取した血液を、遠心分離器で遠心しPRPを作製します。

3.PRP注射

患部に対して、PRPを注射します。作製したPRP全量の投与を基本としますが、患者様の体格等を考慮しながら投与量を調整します。投与目安量は、膝関節:4mL、肩関節:2mL、股関節:5mL、肘関節:2mL、足関節:2mL、指関節:0.5mL です。

遠心分離機

4.予想される効果と起こるかもしれない副作用・事象


 

1)予想される効果

PRPには成長因子が多く含まれていることから、成長因子の効果により、炎症の緩和、痛みの緩和、関節機能(こわばり等)の改善が促進されることが期待できます。

 

先行研究から持続期間は1回で半年効果を認める報告から3回実施で1年効果を認める報告まであります.またPRP治療は回数に比例して作用が持続することも報告されています.

 

PRP治療により関節に起こっている炎症状態が改善すれば症状は沈静化ます.この鎮静化は個人によって異なるため1回で改善される方もいれば複数回の治療を必要とする場合もあります.


 

2)起こるかもしれない副作用・事象

PRPの原料には、患者様ご自身の血液を用います。他人の組織を移植する場合に用いる免疫抑制剤を使うことがないため、免疫抑制剤による副作用の心配はありません。ただし、採血のために静脈内に注射針を刺す行為が必要です。

 

採血は約15mLですので、通常の献血量である200mL、あるいは400mLに比べて少量であり、比較的安全性の高い処置だと考えられますが、ごく稀に以下の表1に示す合併症 (手術や検査などの後、それがもとになって起こることがある症状) の報告があります。また、PRP治療に関連した偶発症 (稀に起こる不都合な症状) や合併症も考えられます。これらの合併症が起きた場合には最善の処置を行います。

また、製造したPRPが規格を満たさない場合や、製造途中で発生した問題により製造が完了しなかった場合など、採血を行ったにもかかわらず、PRP注入ができない場合があることをご理解ください。

5.本治療における注意点

注射後3~4日の間は、細胞の活発な代謝が行われますので、膝の重だるさや腫れやかゆみ、赤みや痛みが出るなどがありますが、その後自然に消失していきます。

痛みを強く感じている間に、安静にし過ぎてしまうと、治療部位が硬くなり長期的な痛みの元になる可能性があります。実施後翌日から指示されたリハビリテーションを行うことが大切です。リハビリテーションは痛みの範囲内で無理ない程度から実施いたします.

投与後、数日間は血流の良くなる活動(長時間の入浴、サウナ、運動、飲酒など)を行うことで、治療に伴う痛みが強くなることがあります。ただし、この痛みが強くなったからと言って、治療効果に差はありません。

関節は細菌に弱いので、清潔に保つよう心掛けて下さい。

6.他の治療法との比較

慢性関節炎に対して、PRP以外の治療法として、ヒアルロン酸の注入(保険診療)などが挙げられます。以下の表は、ヒアルロン酸注入をした場合の利益・不利益について、PRP療法との比較です。

7.治療費用

本治療は、すべて自費診療であり、健康保険を使用することはできません。

 

本治療にかかる費用は、以下のとおりです。なお、費用は、治療に伴う診査、自家PRP調製のための採血にかかる費用、自家PRP調製費用、注入にかかる費用の総額となります。左右両側に投与する場合は、2回分です。

 

関節内:PRP療法1回(1部位)  55,000円(税込)

関節外:PRP療法1回(1部位)  33,000円(税込)

​詳しい内容をお聞きになりたい方は,診察時に主治医へお気軽にご相談ください.

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