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変形性膝関節症に対する手術:高位脛骨骨切り術(HTO)

HTOで膝の痛み治療を

慢 性 的 な 痛 み な ど を 伴 う 「 変 形 性 膝 関 節 症 」 。 自 覚 症 状 が あ り 悩 ん で い る 人 が 約 1 0 0 0 万 人 、 こ の 他 、 潜 在 的 な 患 者 は 約 3 0 0 0 万 人 と い わ れ 、 特 に 中 高 年 の 女 性 に 症 状 が 多 く み ら れ る 。 下 肢 機 能 再 建 専 門 ク リ ニ ッ ク と し て 治 療 に 取 り 組 む 川 田 整 形 外 科 ( 土 佐 市 高 岡 町 甲 ) の 川 田 高 士 院 長(50)に 、 治 療 法 な ど を 聞 い た 。

【 聞 き 手 ・ 大 道 寺 峰 子 】

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変形性膝関節症

Q : ま ず 膝 の 仕 組 み に つ い て 教 え て く だ さ い 。

A:◆ 膝 関 節 は大 腿 骨 ( 太 も も の 骨 )と 脛 骨(す ね の 骨 )、 お 皿 と い わ れ る 膝 蓋 骨で構 成 さ れ ま す 。 大 腿 骨 と 脛 骨 は 前 十 字 靱 帯な ど で 結 び 付 け ら れ て お り 、 骨 同 士 が 接 す る 付 近 は そ れ ぞ れ 厚 さ 約 3 ㍉ の 軟 骨 で 覆 わ れ て い ま す 。 ま た 三 日 月 型 の 軟 骨 で あ る 半 月 板 も 骨 同 士 の 隙 間 を 埋 め る よ う に 配 置 さ れ 、 ク ッ シ ョ ン の 役 目 な ど を 果 た し て い ま す 。 さ ら に 全 体 を 包 む よ う に 関 節 包 が あ り 、 内 側 で は 関 節 液 が 分 泌 さ れ て お り 、 膝 関 節 が 滑 ら か に 動 く 仕 組 み で す 。

Q : 変 形 性 膝 関 節 症 は ど ん な 病 気 で し ょ う か ?

A :◆ 膝 関 節 の 軟 骨 が 擦 り 減 っ た り 、 変 形 し た り す る こ と で 、症 状 が 出 る 病 気 で す 。 初 期 で は 、 椅 子 か ら 立 ち 上 が る 時 な ど に 痛 み を 感 じ 始 め る ケ ー ス が 多 い で す 。 さ ら に 階 段 の 昇 降 時 ( 特 に 下 り ) に 強 く 痛 ん だ り 、 膝 の 曲 げ 伸 ば し が 不 自 由 に な り 、 正 座 が で き な く な っ た り 、 膝 が 腫 れ て 水 が た ま っ た り し ま す 。 原 因 と し て は 、 骨 折 や 靱 帯 損 傷 、 半 月 板 損 傷 な ど の 外 傷 に よ る 場 合 ( 二 次 性 ) と 、は っ き り し な い 場 合( 一 次 性 ) が あ り ま す 。 X 線 画 像 で 診 断 す る の で す が 、 大 半 は 原 因 が は っ き り し ま せ ん 。 加 齢 に よ る 筋 力 低 下 、 肥 満 な ど は 誘 因 の 一 つ と 考 え ら れ ま す 。 も と も と 日 本 人 は O 脚 が 多 く 、 内 側 型 の 変 形 性 膝 関 節 症 に な り や す い 傾 向 が あ り ま す 。 荷 重 軸 が ず れ 、 関 節 に 均 一 に 荷 重 が か か り に く く な る た め 、 徐 々 に O 脚 傾 向 が 強 ま り 、 一 定 の 年 齢 に な る と 一 気 に 障 害 と し て 出 て き ま す.

自分の関節温存『骨切り術』

Q:基 本 的 な 治 療 法 は ?

 

A : ◆ 軽 度 の 場 合 は 運 動 な ど に よ る 保 存 療 法 を 行 い ま す 。 そ れ で 改 善 が 見 込 め な い 場 合 な ど は 手 術 と な り ま す .代 表 的 な 保 存 療 法 と し て 、 飲 み 薬 や 湿 布 な ど で 痛 み や 炎 症 を 軽 減 さ せ る 薬 物 療 法 が あ り ま す 。 軟 骨 修 復 作 用 な ど の あ る ヒ ア ル ロ ン 酸 の 関 節 内 注 射 も そ の 一 つ で す 。 さ ら に 布 製 の 膝 サ ポ ー タ ー や 足 底 板 な ど を 使 っ た 装 具 療 法 や 、 膝 関 節 を 支 え る の に 重 要 な 太 も も の 前 面 の 筋 肉 ( 大 腿 四 頭 筋 ) を 鍛 え る 理 学 療 法 を 組 み 合 わ せ ま す 。 最 終 的 に 手 術 を 行 う 場 合 も 、 手 術 前 後 の リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン を し っ か り す る こ と で 早 期 の 社 会 復 帰 に つ な が り ま す 。 理 学 療 法 士 と の 連 携 が 非 常 に 重 要 で す  。

 

Q : 手 術 に つ い て 詳 し く 説 明 し て く だ さ い 。

 

A : ◆ 手 術 に も 大 き く 3 種 類 あ り ま す 。 ま ず 関 節 鏡 ( 内 視 鏡 )視 下 手 術 で 、比 較 的 、 初 期 の 膝 関 節 症 の 患 者 に 行 わ れ ま す 。 膝 の 軟 骨 が す り 減 る と 、 骨 棘 と 呼 ば れ る と げ が で き 、 と て も 痛 む 場 合 が あ り ま す 。 関 節 鏡 視 下 手 術 で は 、 そ う し た 細 か な も の を 取 り 除 き 、 関 節 内 を き れ い に 整 え ま す 。 5 ㍉ 程 度 の 傷 で 済 み ま す 。 膝 の 変 形 が 大 き い 場 合 は 、 人 工 関 節 に 置 き 換 え る 手 術 が 一 般 的 で 、 全 国 で 年 間 約 8 万 5 千 件 行 わ れ て い ま す 。 約 1 カ 月 程 度 で 退 院 で き ま す 。 た だ 、 正 座 が で き な か っ た り 、 激 し い 運 動 が 制 限 さ れ た り し ま す そ 。 こ で 当 院 で は 、 自 分 の 膝 を 温 存 で き る 「 高 位 脛 骨 骨 切 り 術 」 ( H T O ) に 力 を 入 れ て い ま す 。

Q : H T O は 具 体 的 に ど の よ う の も の で す か ? 

A : ◆ 大 腿 骨 や 脛 骨 の ゆ が み を 調 整 し O 脚 な ど を 矯 正 す る こ と で 、 膝 へ の 負 担 を 減 ら し 変 形 を 抑 え る も の で す。 H  T O は 1 9 7 0 年 代 か ら 行 わ れ て い る の で す が 、 近 年 改 良 型 が 考 案 さ れ 改 め て 注 目 さ れ る よ う に な り ま し た 。 従 来 型 は 脛 骨 の 外 側 を く さ び 状 に 切 り 取 る た め 、 下 肢 全 体 が 短 く な り 、 歩 く ま で に 2 〜 3 カ 月 か か り ま し た 。 一 方 、 3 〜 4 週 間 で 退 院 で き る の が 改 良 型 で す 。 脛 骨 の 内 側 を く さ び 状 に 切 り 広 げ る 点 で 、 大 き く 違 い ま す 。 切 り 広 げ た と こ ろ に 、 時 間 の 経 過 に 伴 い 本 物 の 骨 に 置 き 換 わ る 人 工 骨 を 挿 入 し 、 金 属 プ レ ー ト で 固 定 し ま す 。 手 術 翌 日 か ら 歩 行 訓 練 を 始 め て い き ま す 。 術 後 1 年 で プ レ ー ト は 取 り 外 し ま す 。 ま た 当 院 で は 術 前 に 、 軟 骨 再 生 を 促 す マ イ ク ロ フ ラ ク チ ャ ー と い う 処 置 を 行 い ま す 。骨 に 小 さ な 穴 を 開 け 、 骨 髄 の 中 の 幹 細 胞 を 膝 関 節 内 に 誘 導 す る も の で す 。 幹 細 胞 は 軟 骨 に 分 化 す る 力 が あ り 、 1 年 後 に 確 認 す る と 全 例 で 軟 骨 が 再 生 し て い ま す 。

ゆがみ矯正 負担を軽減

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脛骨の内側をくさび状に切り広げ,人工骨を入れることで,3~4週間で退院できるようになった

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手術では電動の工具を使い.ミリ単位で調整しながら骨を切り広げるため,医師の経験が問われる

HTOでは長さ約10cmのT字型プレートで固定する(左)

​O脚がひどい場合,膝関節周囲骨切り術(AKO)が行われ,大腿骨でも骨切りを行い,プレートで固定する(右)

手術は短時間 効果も長期持続

Q : 骨を切り広げると聞くと,大掛かりそうで不安に感じます.

A : ◆手術自体は1時間弱で,麻酔を含めると約2時間.プレートの長さは約10センチですが,実際の傷は半分程度で済みます.O脚などの骨のゆがみ自体を整えるものなので大掛かりにはなりますが,自分の膝関節を温存するので,体の負担が少ない低侵襲の術式ともいえます.特に比較的若い方にはおすすめです.

 高齢の方でも問題ないのですが,手術により一時的に膝が固くなってしまうので,術前に膝の曲げ伸ばしがどの程度できているかがポイントになります.膝の屈曲伸展や,下肢の筋肉量を確認し,リハビリで少しでも良い状態が確保できてから手術します.一定の基準をクリアできない場合は,手術は行いません.

 個々の骨のゆがみに合わせてミリ単位で骨を切り開く角度をする必要があり,医師の経験が問われます.当院では昨年約90件,HTOの手術を実施しました.全国でも,人工関節の手術に比べると10分の1程度しか行われていません.

Q : 改めてHTOのメリットは?

A : 歯にたとえると,人工関節は入れ歯で,HTOはできるだけ自分の歯を残すのもです.入れ歯にすると固いものが食べられなくなるように,人工関節では激しいスポーツなどができなくなります.

 特にHTOは下肢が一直線になるよう骨のゆがみを矯正し,膝関節を安定させるので,長期的に効果を持続しやすい.最近は膝関節周囲骨切り術(AKO)という概念も広がり始め,O脚がひどい場合,脛骨だけでなく,大腿骨でも骨切り術を行うこともあります.

 また,人工関節の耐久性は向上しているものの20年程度で入れ替えが必要とされます.人工関節は最終の選択肢として残し,できるだけ自分の関節を温存することを優先すべきと私は考えています.人工関節に比べ感染症にかかりにくいというのもメリットです.ただ,関節リウマチなどの炎症性疾患の方は手術ができません.

​ 近年,軟骨の再生医療が注目されており,骨切り術はますます発展していくと期待しています.

​この記事は2019年7月に毎日新聞に掲載されたものを文字起こししたものです.

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1.ACL損傷と前十字靭帯再建術に関する新聞記事(2014)

​2.変形性膝関節症と高位脛骨骨切り術に関する新聞記事(2017)

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