膝蓋大腿関節の軟骨障害が前十字靭帯再建術後の
大腿四頭筋筋力に及ぼす影響
小坂 則之1),高石 翔1),濱田 彩1),矢内原 成美1),浅野 結子1)
上田 康裕1),別役 真菜1),黒石 侑也1),戸田 浩貴1),川田 高士2)
1)医療法人 高尚会 川田整形外科 リハビリテーション部
2)医療法人 高尚会 川田整形外科 整形外科
キーワード:軟骨損傷,前十字靭帯,術前膝伸展筋力,予後予測
要 旨
前十字靭帯再建(ACLR)後の術後大腿四頭筋筋力に影響する因子として軟骨損傷を加えて多変量解析をしている報告はなく,その影響度は不明である.今回,軟骨損傷の存在が術後大腿四頭筋筋力の回復に影響するかどうか多変量解析を用いて検討した.
対象は半腱様筋を用いた前十字靭帯解剖学的二重束再建術を受けた69名であった.対象はACLR後1年を目安に抜釘及び再鏡視を受けた.評価として術前・再鏡視時Tegner Activity Score,術前と再鏡視時の両側等尺性膝伸展・屈曲筋力,伸展筋力患健比,関節鏡視下での膝蓋大腿(PF)・大腿脛骨(FT)関節(J)軟骨損傷を評価した.対象は再鏡視時患側膝伸展筋力体重比が80%以上と80%未満の2群に分類された.統計解析は2群におけるACLRから再鏡視時までのPFJ及びFTJの軟骨損傷進行の比較とACLR及び再鏡視時におけるPFJ及びFTJ軟骨損傷スコアの2群間比較を行った.またACLRと再鏡視時の軟骨損傷の影響を比較するためにロジスティックモデルを2つ作成した.
結果はPFJ,FTJともにACLRから再鏡視にかけてのスコアには2群とも有意差を認めなかった.2群間で比較した結果,ACLR時のPFJ,再鏡視時のPFJ,FTJにそれぞれ有意差を認めた.ACLRから再鏡視における軟骨損傷の進行度合いを比較した結果,PFJ,FTJともに有意差を認めなかった.再鏡視時患側膝伸展筋力体重比に影響する項目はACLR・再鏡視モデルともに術前膝伸展筋力が有意に選択された.再鏡視モデルでは再鏡視時PFJスコアが有意に選択された.
本研究結果から以下の3点がわかった.①再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響する共通因子は術前膝伸展筋力であった.②再鏡視時のPF軟骨損傷スコアは再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響を与えた.③筋力低下による軟骨損傷の進行は統計学的に有意差を認めなかった.
はじめに
前十字靭帯(以下ACL)は膝関節のキネマティクスに関与しており,ACL損傷は矢状面での前後方向と横断面での回旋安定性を崩壊させる1).そのため,保存的治療では将来的に膝の変形性関節症(以下OA)になる確率は19~70%と高い2, 3).また関節症性変化は大腿脛骨関節(以下FTJ)のみでなく,膝蓋大腿関節(以下PFJ)においても発生する4)ことが報告されている.そのため,ACL損傷では前十字靭帯再建(以下ACLR)が第一選択とされる5).しかし,ACLRによって膝の安定性が改善されてもそのキネマティクスは正常でないことが指摘されている6).さらにACLR後においても関節症性変化は存在することが報告されており7),Keaysら8)はその発生率についてACLR後6年でFTJが48%,PFJが36%であったと報告している.
PFJ,FTJ軟骨損傷は大腿四頭筋筋力に関与しており,Stefanikら9)はPFJまたはFTJにおける構造的損傷の結果,大腿四頭筋の筋力低下を生じると指摘している.Powersら10)はPFJ painを有している場合,歩行サイクルにおいて大腿四頭筋の活動が少ないことを報告した.さらに考察の中で膝が構造的損傷を起こすことにより,痛みが続き,大腿四頭筋の収縮を避け,経過とともに筋力低下する可能性を指摘した.Segalら11)はFTJ OAのKellgren-Lawrenceグレードの増加に伴って30か月後の大腿四頭筋筋力が低下したと報告した.一方,多数の先行研究において大腿四頭筋の筋力低下は軟骨損傷を生じることが報告4, 8, 9, 11, 12)されている.
これらの見解から大腿四頭筋の筋力低下により軟骨損傷が生じるのか,もしくは軟骨損傷により大腿四頭筋の筋力低下が生じるのかについては議論が分かれているが,大腿四頭筋の筋力低下と軟骨損傷の観点から見ると相互関係は明らかである.
大腿四頭筋筋力はACLR後の術後経過13, 14)やスポーツ復帰時の指標15)として用いられることが多く,大腿四頭筋の筋力低下はスポーツ復帰の妨げになることは容易に想像できる.ACLR後の術後大腿四頭筋筋力に影響する因子として軟骨損傷を加味している報告16)は少なく,それらの報告では単変量解析を用いており,交絡因子の関係を配慮できない問題がある.
そこで今回,軟骨損傷の存在が術後大腿四頭筋筋力の回復に影響するかどうか多変量解析を用いて検討した.本研究の目的は①ACLR後の大腿四頭筋筋力に軟骨損傷の存在が影響するかどうか,②大腿四頭筋筋力低下は軟骨損傷の進行に影響するかどうかを検証することである.そこで本研究の主仮説を再鏡視時の等尺性膝伸展筋力にACLR・再鏡視時のPFJ OA,FTJ OAの存在が影響するとした.副仮説を大腿四頭筋の筋力低下は軟骨損傷を進行させるとした.以上の仮説検証により関節軟骨損傷がACLR後の膝伸展筋力獲得に与える影響についての問題点が解決されることが期待される.
方法
1.研究デザイン
本研究のデザインは前向きコホート研究とした.
2.対象
本研究は2012年6月から2016年8月の期間に当院にて同一術者によるACL解剖学的二重束再建術(半腱様筋使用)を施行した151名を対象とした.対象には68名の男性と83名の女性が含まれ,年齢は13~75歳までの範囲であった(平均30.6歳).これらの患者のうち92名(61%)が再建術後約1年で金属プレート除去時に再鏡視を受けた.
本研究の除外基準としてACL再断裂,高位脛骨骨切り術とACLR同時施行例,経過追跡困難例が含まれた.最終的に69名がACLR後14.5か月(中央値,範囲320-1029日)で再鏡視を実施した.これらの対象は 男性29名,女性40名で構成され,ACLR時の平均年齢は30.0歳(範囲13-75歳)であった.また受傷からACLRまでの期間は1.7か月(中央値,範囲16-3653日)であった.本研究において個人情報の取り扱いには十分に留意して検討を行った.また対象者には書面を作成して研究目的及び内容を説明し,同意書を作成した.
3.再鏡視
対象はACLR後1年を目安に脛骨側のDouble Spike Plate(以下,DSP)の抜釘を行い,抜釘と同時に関節鏡検査を実施した.
4.評価
基礎的情報として診療録より年齢,性別,身長,体重,受傷から手術までの期間(以下,手術待機期間),ACLRから再鏡視・抜釘術までの期間(以下,再鏡視期間)を調査した.主観的評価として術前・再鏡視時Tegner Activity Score17)(以下,TAS)を実施した.客観的評価として術前と再鏡視時の両側等尺性膝伸展・屈曲筋力,伸展筋力患健比,関節鏡視下でのPF・FT関節軟骨損傷を評価した.
1) 等尺性膝筋力
等尺性膝伸展・屈曲筋力の測定は,等尺性筋力測定機器(OG技研社製,アイソフォース GT-330)を使用した.センサーアタッチメントは脛骨遠位端に設置し,ベルトで固定した.膝屈曲角度60°にて健側及び患側を伸展・屈曲いずれも3回測定し,ピーク平均値を採用した.測定した数値はNからkgfに単位換算し体重で除した体重支持指数(以下,WBI)及び患側を健側で除した患健比を算出し,百分率にて表示した.対象は,ACLR及び再鏡視の前日に,両側膝伸展・屈曲筋力について等尺性筋力測定を行った.またこれらを再鏡視時患側膝伸展WBIが80%以上群(以下High群:1)と80%未満の群(以下Low群:0)の2群に分類した.これらの分類には,ジャンプやダッシュなどの激しい運動を不安なく行うために必要なWBI0.818)を基準とした.
2)軟骨損傷
軟骨損傷の等級付けは術者が史野分類19)を用いて術中に膝蓋骨,滑車,大腿骨内・外側顆(以下,MFC,LFC),及び脛骨内・外側プラトー(以下,MTP,LTP)を評価した.いくつかの異なる等級の軟骨変性が存在した場合,スコアリングは最も重度の軟骨損傷を採用した.スコアリングの方法は瀬川ら20)の方法を採用し,損傷の程度を各部位Grade0~4に分類し,そのGradeをそのまま点数とし合計を算出した.スコアリングの合計範囲はそれぞれPFJが0~8点,FTJが0~16点とした.
5.統計解析
統計解析は2群におけるPFJ及びFTJのACLRから再鏡視時まで軟骨損傷進行の程度を比較するために,Wilcoxonの符号付順位和検定を用い, ACLR及び再鏡視時におけるPFJ及びFTJ軟骨損傷スコアの2群間比較にはMann-Whitney検定を用いた.各変数の正規性の確認にはShapiro-Wilk検定を用いた.ACLRから再鏡視における軟骨損傷の進行変化にはWangら12)の方法を採用し,再鏡視時の各軟骨損傷スコアからACLR時の各軟骨損傷スコアの差を用いた.
さらに上記の単変量解析では交絡因子の影響を考慮できないため,再鏡視時の膝伸展筋力に影響する因子についてPF・FTJ軟骨病変を含んだ多重ロジスティック回帰分析を作成して検討した.
従属変数には前述の2群を設定した.また独立変数には,膝伸展筋力に影響する因子とされている中から年齢,性別,TAS,術前膝伸展筋力を選択し,それに加えてPF・FTJ軟骨損傷スコアを設定した.PF・FTJ軟骨損傷に関係する交絡因子を考慮するために強制投入法を採用した.またACLRと再鏡視時の軟骨損傷の影響を比較するためにロジスティックモデルを2つ作成した.作成した両モデルの有意性の検定にはχ2乗検定を使用し,回帰式の適合度にはHosmer-Lemeshow検定を実施した.また多重共線性の確認には分散拡大要因(Variance Inflation Factor;VIF)を確認した.また軟骨損傷の統計学的解析にはR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした.
結 果
表1に対象者の身体特性,手術待機期間,再鏡視期間,術前・再鏡視時TAS,等尺性膝筋力を示す.再鏡視時の大腿四頭筋筋力により対象を2群に分けた結果,Low群では15名,High群では54名に分類された.
表2に2群の軟骨損傷スコアの合計割合を示す.ACLRにおいてPFJに軟骨損傷を合併していたのはLow群で4人(26.7%),High群で2名(3.7%)とLow群で多く見られた.再鏡視時にPFJに軟骨損傷を合併していたのはLow群7名(46.7%),High群3名(5.6%)で両群ともに増加を認めた.一方, FTJにおいてHigh群ではACLR時に軟骨損傷を合併していたのは13名(24.1%),再鏡視時に軟骨損傷を合併していたのは8名(14.9%)と減少を認めた.しかし,Low群,High群及びPFJ,lFTJともにACLRから再鏡視にかけてのスコアには2群とも有意差を認めなかった.
二群間に分けた各軟骨損傷のスコアの 詳細を表3,4に示す.Low群ではACLR,再鏡視時ともにpatella,trochleaにShino Grade1~4が散見されたが,High群ではGrade1~2が少数であった.MTPに おいてもGrade1~3の範囲で同様の傾向を認めた.
これらの スコアリングを2群で比較した結果,ACLR 時のPFJ,再鏡時のPFJ,FTJにそれぞれ有意差を認めた(p<0.01,表5).
ACLRから再鏡視における軟骨損傷の進行度合いを 比較した結果,PFJ,FTJともに有意差を認めなかった (それぞれp=0.05,p=0.63,表5).
多重ロジスティック回帰分析の結果は,再鏡視時患側 膝伸展WBIに影響する項目はACLRモデルでは術前 膝伸展筋力が有意に選択された.オッズ比は1.06(95%CI:1.01-1.11)であった.また作成したχ2検定は有意であり,Hosmer-Lemeshow検定はp=0.50であり,回帰式の適合度は良好であった.VIFは1.10~1.60であり,多重共線性に問題はなかった.
一方,再鏡視モデルでは術前膝伸展筋力,再鏡視時PFJスコアが有意に選択された.オッズ比はそれぞれ1.06,0.26(95%CI:1.01-1.12,0.07-0.89)であった.また作成したカイ2乗検定は有意であり,Hosmer-Lemeshow 検定はp<0.01であり,回帰式の適合度は不良であった. VIFは1.14~2.37であり,多重共線性に問題はなかった.
考 察
本研究結果から以下の3点がわかった.①再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響する共通因子は術前膝伸展筋力であった.②再鏡視時のPF軟骨損傷スコアは再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響を与えた.③筋力低下による軟骨損傷の進行は統計学的に有意差を認めなかった.
第一に再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響する因子は術前膝伸展筋力であった.術前の膝伸展筋力は術後の筋力回復にとって重要な要素であり,以前から指摘されている.Silkman21)は術前大腿四頭筋筋力が術後大腿四頭筋筋力および機能に正の影響を及ぼすと結論づけた.我々も重回帰分析を用いて再鏡視の筋力に影響する因子を検討した結果,年齢,術前患側伸展筋力体重比,性別が影響することを報告した13).今回の結果は,これらの先行研究と一致する点であった.年齢や性別などが本研究において有意に選択されなかった要因として,2群間の分別に用いた等尺性膝伸展筋力体重比80%が関与している可能性がある.今回High群には54名と対象者の約78%が含まれており,大部分は体重比80%を上回っていた.つまり,今回の解析結果から年齢や性別,スポーツ活動レベルに関わらず再鏡視時の膝伸展筋力体重比80%を上回るためには術前膝伸展筋力が重要ということが示唆された.
第二に再鏡視時のPF軟骨損傷スコアは再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響を与えた.本研究において単変量解析ではPFスコアはACLR,再鏡視ともにHigh群においてスコアは低値であり,それぞれ有意差を認めた(それぞれp<0.01).しかし,ロジスティック回帰分析ではACLRモデルではPFスコアは有意に選択されず,再鏡視モデルでは再鏡視時のPFスコアのみ有意に選択された.Wangら12)はACLR後の大腿四頭筋の回復とPFJ軟骨損傷の関連性を検討した結果,再鏡視時の大腿四頭筋筋力患健比が80%以下のグループではACLR時に比べ再鏡視時に膝蓋骨及び大腿骨滑車に軟骨損傷の悪化を認め,また大腿四頭筋筋力患健比80%以下のグループは80%以上のグループと比較して膝蓋骨軟骨損傷の経時的悪化を有意に認めたと報告している.これらのことからACLR時点でのPFJ軟骨損傷では術後の大腿四頭筋筋力に影響するとは言及できず,ACLR後にPFJスコアが悪化した場合には大腿四頭筋に影響を与えるリスクが示唆された.これまでの先行研究では主に単変量解析での報告であったため,その他の交絡因子は調整されていなかったが,本研究では術後の膝伸展筋力に影響する交絡因子を加えて解析した結果,先行研究の一部を支持する結果となった.
第三に筋力低下による軟骨損傷の進行は統計学的に有意差を認めなかった.ACLR後に大腿四頭筋の筋力低下は6か月までは明らかであるが,さらに2年以上存続する22)ことが報告されており,大腿四頭筋の筋力低下が膝OAの発症の危険因子である可能性23)が指摘されている.Stefanikら9)は大腿四頭筋筋力低下とPFJの構造的損傷との関連を調査した結果,大腿四頭筋筋力低下に伴い外側PFJの軟骨損傷と骨挫傷の罹患率を上昇させると報告した.Culvenorら4)はACLR後に膝のバイオメカニクスを完全に回復できないことや,リハビリ後にも起こりうる長期のROMおよび筋力低下は,PFJの障害をさらに促進し,損害を受けた関節軟骨と相まってPFJ OAにつながる可能性があると結論付けた.Wangら12)もACLRから再鏡視におけるPFJ OA変化について大腿四頭筋筋力患健比を2群に分けて比較した結果,大腿四頭筋患健比80%以下群では有意に変化スコアが高いことを報告した.このように筋力低下はPFJ・FTJ軟骨損傷進行のリスクとして重要視されている.
しかし本研究においてFTJ OAの進行は認められなかった.これらはWangら24)の報告と同様であり.Øiestadら25)もロジスティック回帰分析を用いACLR後10~15年のフォローアップにおけるFTJOAの危険因子を検討した結果,大腿四頭筋の筋力低下は,X線撮影上膝OAの危険因子ではないことを報告した.これらのことからも大腿四頭筋の筋力低下がFTJ OAに影響しない可能性が示唆された.一方でPFJに関してはHigh群,Low群間で軟骨損傷の変化に統計学的有意差を認めなかった(p=0.05)が,Low群においてACLRから再鏡視における変化スコアが悪化する傾向はみられた.(Low群0.53±1.24,High群0.03±0.33)
Culvenorら4)はACLR後10〜15年のPFJ OAの有病率の中央値はほぼ50%であることを報告している.またWangら12)の報告でもフォローアップ期間は約2年とされていることから,本研究ではフォロー期間が約1年と先行研究に比べて短いことが軟骨損傷の進行を認めなった原因である可能性が考えられた.
本研究の結果から再鏡視時の筋力改善のためには術前膝伸展筋力の回復が必要不可欠である.Keaysら8)は放射線学的変化の前に筋力低下を生じており,大腿四頭筋の低下がOAにつながる可能性が高いと報告している.さらにAmin ら26)も大腿四頭筋を三分割して比較した結果,最も弱い膝は,最も強い膝と比較して,30か月間で軟骨の喪失の確率が2.5倍であったと報告した.これらからも術前伸展筋力が低値であることは軟骨損傷のリスクを増大させる可能性が生じる.また再鏡視までに膝伸展筋力を回復させることも関節軟骨損傷予防につながる可能性がある12, 26)ため,早期から筋力改善に向けて取り組んでいく必要がある.
我々は27) ACLR後6か月に等尺性膝伸展筋力体重比80%を超えるために必要な術前筋力カットオフ値を年代別に報告した.それに必要な筋力値(%WBI)は10代57.2%,20代63.6%,30代69.5%,40代以上77.2%であった.これらの基準値を用いることで6か月という早期に体重比80%を改善することが可能になる.さらにACLR後6か月に81%の膝伸展筋力体重比を獲得することで約1年後の再鏡視時に膝伸展筋力体重比100%を獲得できる28)ことを報告している.これらの基準値を用いることで再鏡視時に十分な膝伸展筋力を獲得でき,軟骨損傷の進行予防に寄与できる可能性がある.
本研究の限界として,1つに合併損傷である半月板損傷やそれらの処置に対しての考慮することができていない.Jomhaら29)は,半月板切除術を施行したACL再建膝において,半月板切除術を受けていない群と比較して,有意に高いOA発生率を認めたと報告している.一方でLattermannら30)は骨挫傷に加え関節軟骨病変を合併している人は骨挫傷のみと比較して,有意に外側半月板病変を有したが,ACL再建時に行われたときの外側半月板切除術とOA進行との明確な関係は確立されていないと報告している.このように半月板の関与に関して意見は分かれているが,影響している可能性を排除できない.また切除範囲や側副靭帯損傷の合併も考慮して検討する必要がある.
2つ目にPF軟骨損傷者が少なく,またフォロー期間が短いため,軟骨損傷予防と筋力との関係は明らかにできない.ACLR時にPF関節に軟骨損傷を合併していたのは6人(8.7%),再鏡視時にPF関節に軟骨損傷を合併していたのは10名(14.5%)であり,損傷者は4名増加していた.Culvenorら7)はACLR後約1年で33%がMRIで早期PF OAを有していたとの報告をしていることから本研究においてPF OAの罹患率は低値であったことがわかる.そのため今後は症例数を増やして検討することが必要である.
また軟骨損傷の進行に関しても様々な交絡因子を含めた多変量解析での検証が行われる必要がある.大腿四頭筋の筋力強化は関節軟骨を予防するという報告は散見される12, 26)が,その目標値などはほとんど報告されていないことからもさらなる研究が必要である.
本研究結果から以下の3点がわかった.①再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響する因子は術前膝伸展筋力であった.②再鏡視時のPF軟骨損傷スコアは再鏡視時の等尺性膝伸展筋力に影響を与えた.③筋力低下による軟骨損傷の進行は統計学的に有意差を認めなかった.
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正式な論文は 小坂則之, et al. 膝蓋大腿関節の軟骨障害が前十字靭帯再建術後の大腿四頭筋筋力に及ぼす影響. 高知県理学療法= The Kochi journal of physical therapy, 2018, 25: 41-50. をご参照ください.