前十字靭帯再建術前における膝関節可動域のカットオフ値
~術後6ヵ月で屈曲151°以上獲得を目標として~


高石 翔 ,小坂 則之,濱田 彩,吉村 千恵,矢内原 成美,上田 康裕,黒石 侑也
 

   医療法人 高尚会 川田整形外科 リハビリテーション部
 

キーワード:前十字靭帯,術前,可動域

高知県理学療法= The Kochi journal of physical therapy, 2016, 23: 69-73.

 

要 旨


 ACL再建術前膝屈曲可動域が,術後膝屈曲可動域に影響するかどうかを明らかにすることを目的とした.対象は,2012年5月から2015年4月までに当院で解剖学的二重束再建術をした患者のうち両側例,再々建例,データ不備の症例を除外した74名(男性30名,女性44名)であった.

 

 方法は,カルテより年齢,性別,受傷から手術までの期間を評価し,東大式ゴニオメーターにより術前及び術後6ヵ月時の膝屈曲角度を測定した.統計解析は,術後6ヵ月時の膝屈曲角度に影響する因子を抽出するため,術後6ヵ月時膝屈曲角度を従属変数とし,年齢,性別,受傷から手術までの期間,術前膝屈曲角度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(AIC基準によるステップワイズ法)を適用した.群分けに関しては,術後6ヵ月時の膝屈曲角度151°以上の群(High群)と150°以下の群(Low群)の2群に分類した.ロジスティック回帰分析で影響力があると判断された変数を用いてROC曲線を分析し,カットオフ値を算出した.解析にはR.2.8.1,EZRを使用し,有意水準を5%未満とした.

 

 結果は,受傷から手術までの期間44(11~2200)日,術前患側膝屈曲角度145.6±14.5°,術後6ヵ月時の膝屈曲角度152.7±7.4°であり,High群43名,Low群31名であった.多重ロジスティック回帰分析結果は,術後6ヵ月膝屈曲角度に影響する変数として術前膝屈曲角度が選択された(オッズ比1.05,95%信頼区間1.00-1.10,p<0.05,モデルχ²検定p<0.05,Hosmer Lemeshow 検定 p=0.59,判別的中率64.9%).上記の変数を用いてROC曲線を求めた結果,得られたカットオフ値は147°(感度0.628,特異度0.742,陽性的中率77.1%,陰性的中率59.0%,AUC 71.5%)であった.

 

 本研究より術前で147°以上膝屈曲角度があれば術後6ヵ月時に151°以上の角度を獲得できる可能性が示され,術前での目標値として有用となり得た.

はじめに

 膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament;ACL)再建術後のリハビリテーションにおいて,早期のすみやかな可動域回復は重要である.術後膝関節可動域に影響する術後因子として術後固定期間や術後早期からの大腿四頭筋訓練1,2),術前因子としては受傷から再建術までの期間や手術時の炎症症状などが報告されており3,4),術後膝屈曲可動域に術前の因子が影響する可能性がある.術前可動域の指標として,伸展ではheel height difference(以下,HHD)0mmが示されているが5),我々が渉猟する限り膝屈曲可動域の目標値を示したものはない.


 術前膝屈曲可動域は術後膝屈曲可動域に影響するだろうか.影響するならば,必要となる術前可動域は何度だろうか.今回この2つの疑問に答えるために,ロジスティック回帰分析を行い,術前膝屈曲可動域が術後膝屈曲可動域に与える影響について検討し,術前膝屈曲可動域の目標値を示すことを目的とした.

方 法

 対象は,2012年5月から2015年4月までに当院で同一術者による半腱様筋・薄筋腱を用いた解剖学的二重束再建術をした患者のうち両側例,再々建例,データ不備の症例を除外した男性30名,女性44名の計74名(左53肢,右21肢),年齢30.6±13.7歳であった.合併症は,外側半月板損傷39例,内側半月板損傷9例,内・外側半月板損傷2例,内側側副靭帯損傷1例,内側半月板及び内側側副靭帯損傷1例であった.術後プロトコールは,翌日から可動域訓練,術後1週で膝屈曲90°,術後3週で120°とした.対象者には,書面にて研究目的及び内容を説明し,同意を得た.

​ 方法は,カルテより年齢,性別,受傷から手術までの期間を評価し,術前及び術後6ヵ月時の長坐位での自己他動運動による膝屈曲角度を東大式ゴニオメーターにより1°刻みで測定した.検者は症例の担当理学療法士とした.

 

 統計解析では術後6ヵ月時の膝屈曲角度に影響する因子を抽出するため,術後6ヵ月時膝屈曲角度を従属変数とし,年齢,性別,受傷から手術までの期間,術前膝屈曲角度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を用いた.独立変数の選択にはAIC基準によるステップワイズ法を適用した.群分けに関しては,術後6ヵ月時の膝屈曲角度151°以上の群(以下,High群)と150°以下の群(以下,Low群)の2群に分類した.ロジスティック回帰分析で影響力があると判断された変数を用いてReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を分析し,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,カットオフ値を算出した.解析にはR.2.8.1,EZRを使用し,有意水準は5%未満とした.

結 果

 表1に対象者の評価結果を示す.受傷から手術までの期間44(11~2200)日,術前患側膝屈曲角度145.6±14.5°,術後6ヵ月時の膝屈曲角度152.7±7.4°であり,High群43名,Low群31名であった.


 多重ロジスティック回帰分析結果を表2に示す.術後6ヵ月膝屈曲角度に影響する変数として術前膝屈曲角度が選択され,オッズ比は1.05であった.モデルχ2検定の結果はp<0.05で有意であり,Hosmer Lemeshow 検定では p=0.59とモデルの適合度は良好であった.また実測値と予測値の判別率は64.9%であった.そこで上記の変数を用いてROC曲線を求めた結果,得られたカットオフ値は147°,感度0.628,特異度0.742,陽性的中率77.1%,陰性的中率59.0%,Area Under the Curve(AUC)71.5%であった(図1).


 

前十字靭帯再建と膝の角度
術後6カ月の膝屈曲角度に影響を及ぼす因子
前十字靭帯再建術と術前膝屈曲角度

考 察

 本研究から2点の示唆が得られた.第一に術後6ヵ月膝屈曲可動域に術前膝屈曲可動域が影響する可能性がある.第二に,そのカットオフ値は147°である.


 まず第一に,術後6ヵ月膝屈曲可動域に術前膝屈曲可動域が影響する可能性が示唆された.これまで,術後早期からの可動域獲得の必要性が報告されている.伊藤ら6)は,ACL再建術後3ヵ月以内に膝関節可動域制限が生じた群と生じなかった群,それぞれの膝屈曲可動域回復推移を報告しており,術後5週では115°,同6週で120°,7週ないし8週では最低130°獲得されていなければ,ほぼ90%以上の確率でROM制限を残したとしており,Shelbourneら3)は術後に加速的リハビリテーションを行うことで術後の関節線維症による膝伸展制限発生率が減少したとしている.このように術後経過から膝関節可動域を検討した報告はみられるが,術前膝屈曲可動域から検討した研究は皆無である.本調査において,ロジスティック回帰分析より術後6ヵ月時膝屈曲角度に影響する変数として術前膝屈曲角度が選択され,Hosmer Lemeshow 検定 ではp=0.59とモデルの適合性が示されたことから,術前に良好な膝屈曲可動域を獲得できていれば術後6ヵ月での膝屈曲可動域の回復が見込める可能性があり,術後のみならず術前より介入する必要性が示唆された.


 第二に,術後6ヵ月で膝屈曲151°以上の可動域を得るための術前膝屈曲可動域のカットオフ値147°が示された.これらの値は正座に必要とされる膝屈曲角度である約150°に近似する7).ROC曲線から得られたAUCは71.5%と中等度の検査価値を示し,陽性的中率77.1%であったことから,園部ら5)の提言と同様に,術前に正座ができるかどうかが術後に良好な可動域を獲得できるかどうかの一つの指標となり得る.

 
 本研究では,術後6ヵ月での膝屈曲可動域回復を得るために,術前に十分な膝屈曲角度を有する膝にしておく必要性が示された.この結果から,ACL損傷時の炎症症状に起因する膝屈曲制限が少ない状態にしておくことが,術後炎症症状の長期化に伴う可動域制限を回避するために重要と推測する.Shelbourneら3)はACL再建術後の関節線維症発生率を調査し,受傷後21日以上経て手術を行った群では,それ以前に手術した群と比較し,術後の関節線維症発生率が優位に低かったとしている.一方,Mayrら4)は,受傷から期間を経ていても手術時に膝関節の炎症症状がある場合は,術後に関節線維症が増加したと報告している.
これらの報告を加味すると,本調査において術後6ヵ月膝屈曲可動域に影響する因子として受傷から手術までの期間が選択されなかったのは,ACL受傷後に一定の期間を設けるだけでなく,炎症症状を早期に沈静化させることが可動域制限を回避するために重要であることを意味する.

 

 受傷時には関節内出血を生じ,炎症症状が出現する.関節内の腫脹によって内側広筋や中間広筋といった大腿四頭筋は二次的に興奮性が抑制され筋緊張が低下し8),中間広筋の深層に位置する膝関節筋の機能不全により膝蓋上包の牽引が阻害され,膝蓋上包のインピンジメントにより膝屈曲拘縮を起こす可能性があるとされる9).膝屈曲時には,大腿直筋や外側広筋の過緊張や腸脛靭帯のタイトネスにより膝蓋骨は下方移動が低下,外方偏位し,膝屈曲に制限をきたす場合があり10),その状態で手術操作による炎症症状が加わると,さらなる機能不全が生じると推測される.また炎症症状が長引くと関節鏡刺入部の線維化が生じanterior intervalの癒着が起こりやすくなり11),癒着と筋機能不全が慢性化することで可動域制限を生じる悪循環となると報告されている12).したがって,ACL損傷後の炎症症状をすみやかに沈静化することにより術前の膝関節可動域を十分に獲得することが,術後の炎症症状に伴う癒着や筋機能不全を防ぎ,術後膝屈曲可動域を獲得する上で重要な要素となり得る.

 

 本研究より,術前膝屈曲可動域から術前の炎症状態を把握し術後膝屈曲可動域を予測できる可能性があり,術前にリハビリテーション介入する際の指標としての有用性が示された.本研究には2つの欠点がある.第一に膝屈曲角度をゴニオメーターにより1°刻みで測定しており,再現性に問題がある.第二に,半月板損傷や内側側副靭帯損傷の合併がある症例が含まれていることである.これらの合併により術後膝可動域制限の出現率が高くなると報告されている13).今回の調査でも,術前147°以上の膝屈曲角度を有していたにも関わらず術後6ヵ月で151°未満であった症例8名のうち5名で半月板損傷を合併しており,この点を加味できていない.

 

 今後は症例を集積し,ACL単独損傷群と,半月板や側副靭帯損傷合併例とに分類し各々での検討する必要がある.また,術前膝屈曲角度が147°未満でありながら術後6ヵ月で151°以上獲得した症例も16名存在し,陰性的中率が59.0%と低い要因の一つと推測される.そのため膝屈曲可動域回復に影響するその他の因子を分析する必要がある.


 本調査では,術前膝屈曲可動域147°以上あれば術後6ヵ月で膝屈曲151°以上獲得できる可能性が示された.この値はACL再建術前における膝屈曲角度の目標値として有用である可能性がある.

文 献

1) Henriksson M, Rockborn P, et al.: Range of motion training in brace vs. plaster immobilization after anterior cruciate ligament reconstruction: a prospective randomized comparison with a 2-year follow-up. Scand J Med Sci Sports 12(2):73-80, 2002.
2) Shaw T, Williams MT, et al.: Do early quadriceps exercises affect the outcome of ACL reconstruction? A randomised controlled trial. Aust J Physiother 51(1): 9-17, 2005.
3) Shelbourne KD, Wilckens JH, et al.: Arthrofibrosis in acute anterior cruciate ligament reconstruction. The effect of timing of reconstruction and rehabilitation. Am J Sports Med 19(4): 332-336, 1991.
4) Mayr HO, Weig TG, et al.: Arthrofibrosis following ACL reconstruction-reasons and outcome. Arch Orthop Trauma Surg 124(8): 518-522, 2004.
5) 園部俊晴,今屋 健・他:改訂版スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション,内山英司,岩噌弘志(編),運動と医学の出版社,神奈川,2013,pp229.
6) 伊藤浩充, 佐浦隆一・他:前十字靱帯再建術後の膝関節可動域制限の予測についての検討. 神戸大医保健紀 16:31-37,2000.
7) 吉元洋一:下肢のROMとADL.理学療法学 15(3):247-250,1988.
8) Iles JF, Stokes M, et al.: Reflex actions of knee joint afferents during contraction of the human quadriceps. Clin Physiol 10(5):489-500, 1990.
9) 齊藤 明,岡田恭司・他:膝関節筋が膝蓋上包の動態に及ぼす影響:忘れられていた筋,膝関節筋の作用について. 日本理学療法学術大会 2012, 48100337, 2013.
10) 鈴川仁人, 玉置龍也・他:膝前十字靱帯損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法.理学療法 29(2):61-174,2012.
11) Paulos LE, Wnorowski DC, et al.: Infrapatellar contracture syndrome. Diagnosis, treatment, and long-term followup. Am J Sports Med 22(4): 440-449, 1994.
12) Steadman JR, Dragoo JL, et al.: Arthroscopic release for symptomatic scarring of the anterior interval of the knee. Am J Sports Med 36(9): 1763-1769, 2008.
13) Noyes FR, Mangine RE, et al.: The early treatment of motion complications after reconstruction of the anterior cruciate ligament. Clin Orthop Relat Res (277): 217-228, 1992.