膝前十字靭帯損傷者の関節位置覚には心的時間と
スポーツ活動レベルが影響する
~重回帰分析による関節位置覚に影響する因子の解析~


高石 翔 1),小坂 則之 1),濱田 彩 1),矢内原 成美 1),浅野 結子 1),上田 康裕 1),
別役 真菜 1),黒石 侑也 1),戸田 浩貴 1),川田 高士 2)

                1)医療法人 高尚会 川田整形外科 リハビリテーション部
2)医療法人 高尚会 川田整形外科 整形外科

キーワード:前十字靭帯,関節位置覚,運動イメージ,Tegner Activity Score 

高知県理学療法= The Kochi journal of physical therapy, 2017, 24: 45-53.

 

要 旨


 ACL損傷者の関節位置覚に影響する因子を重回帰分析により解析することを目的とした.2015年5月から2016年8月までにACL再建目的で当院に入院した24名,31.0±14.4歳を対象とし,術前に評価した.

 方法は,カルテより年齢,性別,半月板損傷合併の有無,受傷からの期間を抽出し,主観的機能スコアとしてInternational Knee Documentation Committee,Lysholm Score,Tegner Activity Score(TAS)を用いた.次に関節可動域として,患側膝関節屈曲角度,Heel Height Differenceを測定した.筋力評価では,健側と患側の等尺性膝関節伸展・屈曲筋力体重比及びH/Q比,膝関節伸展・屈曲筋力の患健比を算出した.運動イメージの評価には,膝関節項目のKinesthetic and Visual Imagery Questionnaire,心的時間を用いた.心的時間測定では,端坐位で閉眼して一側膝関節を伸展させた肢位から,膝関節を30°,60°,90°屈曲する運動イメージを健側及び患側で想起してもらい,その想起時間の差を求めた.関節位置覚検査では,腹臥位で閉眼させ健側下腿部を自作の傾斜板(設定角度30°)にのせて健側膝関節屈曲させ,設定角度まで患側膝関節を自動運動で屈曲してもらい,健側角度と患側角度との差異を誤差角度として求めた.関節位置覚誤差に影響する要因を抽出するため,関節位置覚誤差を従属変数,その他の因子を独立変数として重回帰分析(AIC基準によるステップワイズ法)を行った.統計解析にはR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした.

 重回帰分析の結果,関節位置覚誤差に影響する項目として,60°心的時間(p<0.01)とTAS (p<0.05)が有意に選択された(標準化偏回帰係数:-0.494,-0.447,調整済みR²:0.369,ANOVA:p<0.01).

 本研究からACL損傷者は関節位置覚低下を視覚で代償して運動イメージを構築している可能性が示唆され,関節位置覚を改善させるためには,視覚への依存を減少させて関節位置覚を賦活させる運動が重要と推測された.

はじめに

 膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament;ACL)は脛骨の前方及び回旋を制御する役割を果たすとともに,メカノレセプターが存在し1-3),関節位置覚に関与している4).そのため下肢の代表的なスポーツ傷害の一つであるACL損傷では,関節位置覚が低下することが報告されており5-9),ACL損傷者において関節位置覚低下はgiving way及び不安定性10)や片脚立位バランス11)などに関与し,関節位置覚は神経運動器協調能の一端を担うとされる12).また関節位置覚と,膝機能評価の一つであるLysholm Score(LS)やスポーツ活動レベルの指標であるTegner Activity Score(TAS)との相関が報告されていることから9,13),スポーツを含めた活動レベルと関節位置覚との関連性が示唆されている.さらにバスケットボール選手を対象とした前向き研究では,ACL損傷例では受傷前から関節位置覚低下を認めており,関節位置覚低下はACL損傷リスクの一つであると報告されていることから14),ACL再断裂予防の観点からも関節位置覚の改善は重要である.


 関節位置覚に影響する上記以外の因子として,年齢15,16),H/Q比17),半月板損傷の有無18),運動イメージ想起能力19)などが報告されているが,それらは単変量解析によるものであり要因間の関係は明らかではない.ACL損傷者の関節位置覚に,どの因子が最も関与しているか.今回この臨床的疑問に答えるために重回帰分析を行い,関節位置覚に影響する因子を解析した.

対 象

 2015年5月から2016年8月までにACL再建目的で当院に入院した患者のうち,両側例,再々建例を除外した男性10名,女性14名の計24名,年齢31.0±14.4歳を対象とし,術前に評価した.合併症は,外側半月板損傷11例,内側半月板損傷5例,内・外側半月板損傷1例であった.対象者には,書面で研究目的及び内容を説明し,同意を得た.


 方法は,カルテより年齢,性別,半月板損傷合併の有無,受傷からの期間を抽出し,膝の主観的機能スコアとしてInternational Knee Documentation Committee(IKDC),LS,TASを評価した.次に関節可動域として,長坐位での自己他動運動による患側膝関節屈曲角度を東大式ゴニオメーターにより1°刻みで測定し,伸展角度の指標としてHeel Height Difference(HHD)を評価した.筋力評価では,膝関節屈曲角度が60°に設定された等尺性筋力測定機器(OG技研社製アイソフォースGT-330)を使用して,健側と患側の等尺性膝関節伸展・屈曲筋力体重比及びH/Q比,膝関節伸展・屈曲筋力の患健比を算出した.

 

 運動イメージの評価には, Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire(KVIQ) 膝関節項目の筋感覚的運動イメージ及び視覚的運動イメージ,心的時間を用いた.心的時間測定は中野ら20)の方法に準じ,端坐位で一側膝関節を伸展させた肢位から健側で膝関節屈曲30°,60°,90°の他動運動をさせて対象者に角度を記憶させた後に閉眼させ,端座位で一側膝関節伸展させた肢位から膝関節屈曲する運動イメージを健側及び患側で想起させて,それぞれの角度ごとに3回ずつ測定した平均到達時間を算出後,患側と健側の想起時間の差を求め,代表値とした.心的時間は,対象者自身がストップウォッチ(カシオ社製HS-3C-8AJH)を把持して計測した.

 

 関節位置覚検査は山田ら21)の方法を参考にした.方法は腹臥位で閉眼させた状態で健側下腿部を自作の傾斜板(設定角度30°)にのせて健側膝関節屈曲させ,設定角度まで患側膝関節を自動運動で屈曲してもらい, デジタル傾斜角度計(シンワ測定社製デジタルアングルメーターミニ)を用いて健側と患側下腿部の傾斜角度を計測し,健側角度と患側角度との差異を誤差角度として求めた.なお腓腹筋のできる限り平坦な部位の皮膚上にマーキングし,デジタル傾斜角度計の当てる位置が一定となるように留意して,測定で信頼を得るために3回測定した平均の誤差角度を代表値とした22).関節可動域,筋力は対象者の担当理学療法士が評価し,運動イメージ及び関節位置覚は同一の検者が測定した.


 関節位置覚誤差に影響する要因を抽出するため,関節位置覚誤差を従属変数,年齢,性別,半月板損傷合併の有無,受傷からの期間,IKDC,LS,TAS,患側膝関節屈曲角度,HHD,健側と患側の等尺性膝関節伸展・屈曲筋力体重比及びH/Q比,膝関節伸展・屈曲筋力の患健比,KVIQ,心的時間(30°,60°,90°)を独立変数として重回帰分析(AIC基準によるステップワイズ法)を行った.また多重共線性を確認するためにVariance Inflation Factor(VIF)及び相関行列を確認した.統計解析にはR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした.

結 果

 対象者の評価結果を表1,関節位置覚誤差を従属変数とした重回帰分析の結果を表2に示す.重回帰分析の結果,関節位置覚誤差に影響する因子として,60°心的時間(p<0.01)とTAS(p<0.05)が有意に選択された(標準化偏回帰係数:-0.494,-0.447,調整済みR²:0.369,ANOVA:p<0.01).なお多重共線性を考慮し,相関行列を確認したが|r|>0.9となる変数が存在せず,VIFは全て2未満であったことから多重共線性の問題は小さいと判断した.

 


 

表1 対象者の評価結果
受傷から手術までの期間は中央値(範囲),その他の項目は平均値±標準偏差で表記する
表2 関節位置覚誤差を従属変数とした重回帰分析の結果
ANOVA p<0.01, 自由度調整済み重相関係数(R²)=0.369
独立変数の選択にはAICステップワイズ法を使用

考察

 本研究からACL損傷者の関節位置覚に運動イメージの指標の一つである心的時間と,スポーツ活動レベルの評価であるTASが影響することが判明した.まず第一にACL損傷者の関節位置覚に運動イメージが影響することが示された.野崎ら19)は健常男性を対象とした研究において運動イメージ評価の一つであるメンタルローテーションと関節位置覚との間に相関があったと述べており,本研究での結果を支持する.膝蓋骨骨折症例を対象とした先行研究20)では,心的時間測定において健側肢と比べ患側肢では心的時間が延長したとの報告があることから,本研究でもACL損傷に伴う関節位置覚の低下が著しい症例ほど,健側と比べ患側肢の運動イメージ想起時間が延長して,想起時間の左右差が大きくなると予測された.

 

 しかし統計解析では,健側肢と患側肢での運動イメージ想起時間の差が小さいほど関節位置覚誤差が大きい結果となった.これは,1.ACL損傷による関節位置覚の低下を代償するために,求心性の情報処理過程において視覚情報による補完が生じた.2.求心性信号が視覚優位となったために,運動プログラム生成の際にも視覚的運動イメージが優位となった.3.視覚的運動イメージを想起したため,患側肢での心的時間が健側と比べ延長しなかったと推測する.以下に,それぞれの根拠について述べる.


 1.ACL損傷による関節位置覚の低下を代償するために,求心性の情報処理過程において視覚情報による補完が生じた可能性について記述する.人間は視覚入力,前庭感覚入力,体性感覚入力といった複数の感覚入力を中枢神経系で統合し,運動を制御しており 23),Peterka24)は感覚情報に対する重みづけは環境や状況によって変化すると述べている.

 

 Hwangら25)は健常対象者において,アキレス腱振動刺激により体性感覚情報に外乱が加わった場合,立位姿勢制御における視覚や前庭感覚に対する重みづけが大きくなったと報告しており,ACL損傷者では関節位置覚といった体性感覚入力の正確性が低下することで5-9),運動制御において体性感覚情報への重みづけが減少して視覚情報が優位となり得る.実際に片脚立位の重心動揺をACL損傷者と健常者で比較した研究では,開眼条件ではACL損傷者と健常者に差は認めないが26),閉眼するとACL損傷者での重心動揺がより大きくなると報告されており27,28),健常者と比べACL損傷者は視覚に依存していることが窺える.
 

 2.求心性信号が視覚優位となったために,運動プログラム生成の際にも視覚的運動イメージが優位となった可能性について説明する.運動イメージ中には実際の運動と共通して活動する脳領域が存在し29),Jeannerod30)によれば運動イメージは運動シュミレートの過程であるという.運動イメージは筋感覚的運動イメージと視覚的運動イメージの2タイプに分類される.筋感覚的運動イメージ中の脳活動として,大脳皮質レベルでは運動皮質(運動前野,前補足運動野及び補足運動野,一次運動野)や頭頂葉(一次体性感覚野,上頭頂小葉及び下頭頂小葉)といった運動関連領域の活動が報告されており31),視覚的運動イメージでは前補足運動野や下頭頂小葉などの活性化が低下し32),視覚野が関与する33).

 

 山田ら34)は運動イメージが末梢の運動器の影響を受ける可能性があると述べており,運動器障害によって関節位置覚といった体性感覚の求心性信号が障害され,大脳皮質レベルでは体性感覚野の可塑的変化が生じる35-37)ことで,体性感覚を基盤とした筋感覚的運動イメージ33)が変質する可能性がある.これまで関節の不動化38),疼痛39),切断40)などによる運動イメージ障害が報告されており,ACL損傷でも関節位置覚障害5-9)によって求心性信号が変質して,体性感覚野の再配置が起こり41-43),筋感覚的運動イメージが障害され得る.その状態で運動プログラム生成を要求されると,筋感覚的運動イメージを想起できず,視覚情報に基づいた視覚的運動イメージによって代償するかもしれない.

 

 本研究では端座位での膝関節屈曲運動時の心的時間を測定しているが,Kapreliら44)は本研究と類似した条件下で運動した際のfMRIを測定している(ACL損傷者と健常者を対象とした背臥位での膝関節の屈伸運動課題).その結果,ACL損傷者は健常者と比較し視覚関連領域である後下側頭回活動が増加したという.したがって,本研究においても運動プログラム生成,すなわち心的時間測定の際には視覚による代償が生じた可能性がある.
 

 3.視覚的運動イメージを想起した結果,患側肢での心的時間が健側と比べ延長しなかった理由を記述する.心的時間測定とは,ある課題の遂行を心的にイメージし,そのイメージにかかった時間を測定するものである.Decetyら45,46)は健常者を対象とした歩行課題での心的時間測定において,実際の歩行にかかった時間と,同じ距離を歩行するイメージを想起するのにかかった時間が一致したと報告しており (フィッツの法則),心的時間測定法は運動イメージ能力の時間的側面における評価に使用される.

 上原ら47)は健常者と整形外科疾患患者を対象とし,歩行課題の心的時間を測定している.その結果,健常者と比べ下肢または腰部整形外科疾患患者は歩行実行時間と運動イメージによる歩行時間がフィッツの法則に反して一致しない傾向にあり,整形外科疾患患者では自己の運動イメージを過大もしくは過小評価していると述べている.Stevens48)は,筋感覚的運動イメージ及び視覚的運動イメージそれぞれで歩行課題をイメージした場合の心的時間を測定しており,筋感覚的運動イメージでは実際の運動遂行時間と運動イメージ想起時間が一致しフィッツの法則に則るが,視覚的運動イメージでは両者が一致せずフィッツの法則に従わなかったという.

 

 これらの報告から,整形外科疾患患者では運動をイメージする際に,視覚的運動イメージを想起している可能性がある.心的時間測定法以外に運動イメージ想起時間を測定する評価として,Shepardら49)によって提唱されたメンタルローテーション課題があり,心的時間測定法とメンタルローテーション課題は双方ともに筋感覚的運動イメージ想起能力に関係する評価法である50).メンタルローテーションとは,回転呈示された文字・図形や身体部位を心的に回転することでそれが何であるかを同定したり身体の左右を識別するものである51,52).

 

 楠本ら53)は,健常者を対象とした手部の画像を用いたMR課題中の脳波を記録し,画像の識別に要した反応時間を測定している.その結果,反応時間の遅い群では後頭葉から頭頂葉を通り前頭葉へと神経活動の広がりを認め,情報処理過程で体性感覚情報への変換がなされていたが,反応時間の早い群では後頭葉から側頭葉を通り前頭葉へと神経活動が広がっており,頭頂葉の有意な活動が認められなかったことから,手部の画像が体性感覚情報へと変換されずに視覚的なイメージとして情報処理された可能性があるという.この研究では反応時間の早い群において頭頂葉の有意な活動がみられなかったことから,反応時間の早い群では体性感覚情報に基づいた筋感覚的運動イメージが想起されていない可能性があると結論付けている.メンタルローテーションに関する報告を加味すると,筋感覚的運動イメージを想起せず視覚的に運動をイメージした場合には,心的時間測定においてもイメージ想起時間が短縮する可能性があり,本研究でも心的時間測定の際に視覚的運動イメージを想起した結果,患側肢でのイメージ想起時間が健側肢と比べ延長しなかったと推測する.
 

 次に関節位置覚にスポーツ活動レベルが影響する結果となったことについて述べる.ACL再建者を対象とした先行研究13)でも,関節位置覚とスポーツ活動レベルとの相関が報告されており,本研究ではACL損傷者でも両要因間に関連を認め,スポーツ活動レベルが高い対象者は関節位置覚誤差が小さいことが明らかとなった.

 これまで,スポーツ活動などの身体活動によって,関節位置覚を含めた運動感覚機能が向上する可能性を示した報告があるが54,55),運動によってACL損傷者の関節位置覚が改善するか否かは報告が分かれている.ACL損傷者の関節位置覚の回復が得られないとする研究には以下のものがある.

 

 Carterら56)はACL損傷者に計100時間のホームエクササイズを行った結果,リハビリテーション前に低下していた関節位置覚は変わらなかったと述べており,Fremereyら9)は,ACL再建者に対して標準的リハビリテーションを術後3ヵ月間行っても関節位置覚は改善しなかったと報告している.反対にリハビリテーションによって関節位置覚が改善したとする報告として以下のものが挙げられる.岩佐ら57)はACL再建術後2週目から4週目までの2週間,閉眼下で下肢固有受容性訓練を毎日行った群は,非訓練群と比較して関節位置覚が術後4週で有意に改善したと報告している.また,泰地ら58)のACL再建術後症例を対象とした研究では,対照群(標準的リハビリテーションを行った群)とメンタルローテーション群(標準的リハビリテーションに加え足部のメンタルローテーション課題を毎日20分行った群)との介入効果を比較している.その結果メンタルローテーション群は,対照群と比較し術後4週での関節位置覚誤差が小さかったという.

 このように,運動課題によってACL損傷者の関節位置覚が改善するか否かは報告が分かれているが,関節位置覚を含めた固有感覚を賦活させる運動課題や運動イメージ想起課題によって,関節位置覚改善が見込める可能性が示唆されている.本研究では関節位置覚が低下した症例は求心性情報の処理過程で視覚情報に依存しており,運動をプログラムする際には,閉眼しているにも関わらず視覚的に運動をイメージしている可能性が示唆されたことを加味すると,関節位置覚向上のためには,視覚情報に依存させず,関節位置覚といった固有感覚情報の利用を求めるような運動が必要であるかもしれない.


 これまで,視覚への依存は長期的な運動学習に繋がらないことが報告されている.Ikegamiら59)は運動学習において視覚的フィードバック減少により学習効果が向上したと報告しており,冷水ら60)はバランス学習において課題試行中の視覚情報への依存は有効な学習に繋がらず,試行中に体性感覚情報,試行後には視覚情報によるフィードバックを与えることで学習保持効果が得られたと述べている.また,ACL再建術後の目標となるスポーツにおいても,高い競技レベルの選手は低い競技レベルの選手と比べ視覚への依存が小さいことが報告されている61,62).

 

 本研究でも,関節位置覚誤差が大きいほど心的時間の左右差が減少したことから,関節位置覚などの体性感覚情報から視覚情報へと重みづけが変化して,運動プログラム生成の際には視覚的運動イメージが有意になった可能性が示唆され,視覚情報に依存させずにスポーツなどの活動レベルを向上させる事で関節位置覚の改善が得られる可能性が示されたことから,ACL損傷者の関節位置覚を向上させるためには,視覚への依存を減少させ,関節位置覚情報に焦点を当てたリハビリテーションを行う必要があると推測する.
 

 本研究には3つの欠点がある.第一に運動イメージ想起時に脳活動を計測しておらず,対象者が運動をイメージした際の脳活動は不明であり,筋感覚運動イメージを想起しているのかそれとも視覚的運動イメージを想起しているのか,評価結果から推測するしかない.第二に,患側膝関節屈曲角度及びHHDは対象者の担当理学療法士が測定しており,再現性に問題がある.第三に,視覚に依存させずに固有感覚情報の利用を求める運動をすることで,ACL損傷者の関節位置覚が改善するかどうかの追跡調査ができない.本研究での対象者はACL再建を目的に入院しており,ACLが損傷した状態で関節位置覚が改善するか否か検証不可能である.今後はACL再建術後症例において,どういった運動課題により関節位置覚改善が得られるか調査していく.
 

 本研究からACL損傷者の関節位置覚に運動イメージ評価の一つである心的時間と,スポーツ活動レベルの指標であるTASが影響することが示され,関節位置覚を向上させるためには,視覚への依存を減少させて固有感覚情報に焦点を当てた身体活動が重要である可能性が示唆された.

文献

1) Kennedy JC, Alexander IJ, et al: Nerve supply   of the human knee and its functional importance. Am J Sports Med10(6) : 329-335, 1982.
2) Schultz RA, Miller DC, et al: Mechano-receptors  in human cruciate ligaments. A histological study. J Bone Joint Surg Am66(7) : 1072-1076, 1984.
3) Schutte MJ, Dabezies EJ, et al: Neural anatomy of the human anterior cruciate ligament. J Bone Joint Surg Am 69(2) : 243-247, 1987.
4) 安達伸生, 越智光夫,他:膝前十字靱帯内のメカノ レセプターと関節位置覚との関係.日整会誌 73(3):s915,1999.
5) Barrack RL, Skinner HB, et al: Proprioception in the anterior cruciate deficient knee. Am J Sports Med17(1) : 1-6, 1989.
6) Jerosch J, Prymka M, et al: Knee joint proprio- ception in normal volunteers and patients with anterior cruciate ligament tears, taking special account of the effect of a knee bandage. Arch Orthop Trauma Surg 115(3-4) : 162-166, 1996.
7) Beynnon BD, Ryder SH, et al: The effect of  anterior cruciate ligament trauma and bracing on knee proprioception. Am J Sports Med 27(2) :   150-155, 1999.
8) Fischer-Rasmussen T, Jensen PE, et al : Proprio ceptive sensitivity and performance in anterior cruciate ligament-deficient knee joints. Scand J Med Sci Sports10 (2) : 85-89, 2000.
9) Fremerey RW, Lobenhoffer P, et al: Proprio- ception after rehabilitation and reconstruction in knees with deficiency of the anterior cruciate ligament: a prospective, longitudinal study. J Bone Joint Surg Br 82 (6) : 801-806, 2000.
10) Roberts D, Friden T, et al: Proprioception in people with anterior cruciate ligament deficient knees: comparison of symptomatic and asymptomatic patients. J Orthop Sports Phys Ther 29(10) : 587-594, 1999.
11) 白石 稔,他:前十字靱帯損傷膝及び再建膝における位置覚と片脚立位バランスの関連性について.日整外スポーツ医会誌 15(2):199,1995.
12) 井原秀俊:運動器リハビリテーションにおける膝関節固有感覚.運動療物理療 17(3):190-194,2006.
13) Barrett DS: Proprioception and function after anterior cruciate reconstruction. J Bone Joint Surg Br 73(5) : 833-837, 1991.
14) 岡村良久,星 忠行,他:膝前十字靱帯損傷と関節固有感覚.臨スポーツ医 19(9):1011-1015,2002.
15) Barrack RL, Skinner HB, et al : Effect of articular disease and total knee arthroplasty on knee joint-position sense. J Neurophysiol 50(3) : 684-687, 1983.
16) Barrett DS, Cobb AG, et al : Joint proprioception in normal, osteoarthritic and replaced knees. J Bone Joint Surg Br 73(1) : 53-56, 1991.
17) Corrigan JP, Cashman WF, et al : Proprioception in the cruciate deficient knee. J Bone Joint Surg Br 74(2) : 247-250, 1992.
18) 福原幸樹,平田和彦,他:半月板損傷の合併は膝前十字靱帯再建術後の膝固有感覚の回復に影響する.理学療法学 40:S-A運動-023,2013.
19) 野崎 壮,多々良大輔,他:上肢運動イメージ想起能力と上肢挙上における位置覚との関連性.理学療法学 39(Suppl.2):0429,2012.
20) 中野英樹,生野達也,他:膝関節のギプス固定中における運動イメージの介入がギプス除去後の関節可動域に及ぼす影響 -一症例による検討-. 理療科 25(1):151-153,2010.
21) 山田和政,鳥居昭久,他:簡易角度計による関節位置覚検査の信頼性.理学療法学 25(3):113-120,1998.
22) 杉原敏道,郷 貴大,他:関節位置覚測定で信頼性を得るための条件に関する検討.東北理療 (16):14-17,2004.
23) 板谷 厚:感覚と姿勢制御のフィードバックシステム.バイオメカニズム会誌 39(4):197-203,2015.
24) Peterka RJ: Sensorimotor integration in human postural control. J Neurophysiol 88(3) : 1097-1118, 2002.
25) Hwang S, Agada P, et al : Dynamic reweighting of three modalities for sensor fusion. PLoS One 9(1) : p. e 88132, 2014.
26) Mattacola CG, Perrin DH, et al : Strength, Functional Outcome, and Postural Stability After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction. J Athl Train 37(3) : 262-268, 2002.
27) O'Connell M, George K, et al : Postural sway and balance testing: a comparison of normal and anterior cruciate ligament deficient knees. Gait Posture 8(2) : 136-142, 1998.
28) Okuda K, Abe N, et al : Effect of vision on postural sway in anterior cruciate ligament injured knees. J Orthop Sci 10(3) : 277-283, 2005.
29) Hanakawa T, Immisch I, et al : Functional properties of brain areas associated with motor execution and imagery. J Neurophysiol 89(2) : 989-1002, 2003.
30) Jeannerod M: Mental imagery in the motor context. Neuropsychologia 33(11) : 1419-1432, 1995.
31) Bonda E , Petrides M, et al : Neural correlates of mental transformations of the body-in-space. Proc Natl Acad Sci U S A 92(24) : 11180-11184, 1995.
32) Ruby P, Decety J: Effect of subjective perspective taking during simulation of action: a PET investi- gation of agency. Nat Neurosci 4(5) : 546-550, 2001.
33) 鈴木俊明,文野住文,他:運動イメージと脊髄神経機能.関西理学 13:1-9,2013.
34) 山田 実,樋口貴広,他:肩関節周囲炎患者における機能改善とメンタルローテーション能力の関連性.理学療法学 36(5):281-286,2009.
35) Merzenich MM, Kaas JH, et al : pographic reorgani- zation of somatosensory cortical areas 3b and 1 in adult monkeys following restricted deafferentation. Neuroscience 8(1): 33-55, 1983.
36) Mogilner A, Grossman JA, et al : Somato-sensory cortical plasticity in adult humans revealed by magnetoencephalography. Proc Natl Acad Sci U S A 90(8): 3593-3597, 1993.
37) Weiss T, Miltner WH, et al : Rapid functional plasticity of the somatosensory cortex after finger amputation. Exp Brain Res 134(2): 199-203, 2000.
38) Malouin F, Richards CL, et al : Effects of practice, visual loss, limb amputation, and disuse on motor imagery vividness. Neurorehabil Neural Repair 23(5): 449-463, 2009.
39) 平川善之,花田謙司,他:急性疼痛が運動イメージに与える影響.理学療法学 36(Suppl.2):652,2009.
40) Nico D, Daprati E, et al : Left and right hand recognition in upper limb amputees. Brain 127(Pt 1): 120-132, 2004.
41) Valeriani M, Restuccia D, et al : Central nervous system modifications in patients with lesion of the anterior cruciate ligament of the knee. Brain 119 (Pt 5): 1751-1762, 1996.
42) Courtney CA, Rine RM : Central somato-sensory changes associated with improved dynamic balance in subjects with anterior cruciate ligament deficiency. Gait Posture 24(2): 190-195, 2006.
43) Baumeister J, Reinecke K, et al : Changed cortical activity after anterior cruciate ligament recon- struction in a joint position paradigm: an EEG study. Scand J Med Sci Sports 18(4): 473-484, 2008.
44) Kapreli E, Athanasopoulos S, et al : Anterior cruciate ligament deficiency causes brain plasticity: a functional MRI study. Am J Sports Med 37(12): 2419-2426, 2009.
45) Decety J, Jeannerod M, et al : The timing of men- tally represented actions. Behav Brain Res 34(1-2): 35-42, 1989.
46) Decety J, Jeannerod M : Mentally simulated move- ments in virtual reality: does Fitts's law hold     in motor imagery? Behav Brain Res 72(1-2):   127-134, 1995.
47) 上原一将,新田智裕,他:整形外科疾患患者の運動イメージ能力は低下するか?mental chronometry利用した歩行課題からの検討.理学療法学 35(Suppl.2):324,2008.
48) Stevens JA : Interference effects demonstrate distinct roles for visual and motor imagery  during the mental representation of human action. Cognition 95(3): 329-350, 2005.
49) Shepard RN, Metzler J : Mental rotation of   three-dimensional objects. Science 171 (3972): 701-703, 1971.
50) 門馬 博:属性の異なる運動イメージ能力評価法の相互関係性に関する検討.理療科 29(1):45-49,2014.
51) Kosslyn SM, DiGirolamo GJ, et al : Mental rotation of objects versus hands: neural mechanisms revealed by positron emission tomography. Psychophysiology 35(2): 151-161, 1998.
52) Parsons LM : Integrating cognitive psychology, neurology and neuroimaging. Acta Psychol (Amst)  107 (1-3): 155-181, 2001.
53) 楠元 史,今井亮太,他:メンタルローテーション課題における脳活動と反応時間の関係 EEGを用いて.理療科 29(4):479-483,2014.
54) Barrack RL, Skinner HB, et al : Joint kinesthesia in the highly trained knee. J Sports Med Phys Fitness 24(1): 18-20, 1984.
55) Xu D, Hong Y, et al : Effect of tai chi exercise on proprioception of ankle and knee joints in old people. Br J Sports Med 38(1): 50-54, 2004.
56) Carter ND, Jenkinson TR, et al : Joint position sense and rehabilitation in the anterior cruciate ligament deficient knee. Br J Sports Med  31(3): 209-212, 1997.
57) 岩佐潤二,桑田 卓,他:前十字靱帯損傷膝と再建膝における膝関節固有感覚の評価と訓練.運動療物理療 17(3):202-208,2006.
58) 泰地章公,岡田祐子,他:急性期におけるメンタルローテーション介入効果-ACL術後患者を対象に-.理学療法学 40:P-A基礎-221,2013.
59) Ikegami T, Hirashima M, et al : Intermittent visual feedback can boost motor learning of rhythmic movements: evidence for error feedback beyond cycles. J Neurosci 32(2): 653-657, 2012.
60) 冷水 誠,貴島みのり,他:バランス学習におけるビデオフィードバック付加効果の検証.理学療法学 38(Suppl.2):OI1-012,2011.
61) Paillard T, Noe F : Effect of expertise and visual contribution on postural control in soccer. Scand J Med Sci Sports 16(5): 345-348, 2006.
62) Paillard T, Margnes E, et al : Postural ability reflects the athletic skill level of surfers. Eur J Appl Physiol 111(8): 1619-1623, 2011.