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1.骨粗鬆症について

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は,骨の強度が低下し骨折しやすくなる病気のことです.骨粗鬆症は進行が進むと骨の中の密度が低くなり骨が折れやすくなるため,くしゃみや少しの転倒でも骨折を起こす可能性が高くなります.

 

なぜ骨粗鬆症が生じるかというと,それは骨の新陳代謝バランスが崩れるからです.骨の新陳代謝(リモデリング)は骨を壊す工程と骨を作る工程からなります.骨は常に壊され新しく生まれ変わります.骨は海綿骨(骨の内側でスポンジ状)で年間40%,皮質骨(骨の外側で固い部分)で年間7%程度入れ替わると言われています.

 

20歳までは骨量が増えるとされ,20~50歳までは維持,50歳を過ぎると骨量は減少すると言われており,50歳を過ぎると骨を壊すサイクルが活性化するため骨粗鬆症のリスクが高くなります.

 

特に女性は性ホルモンの影響を受けやすくなるため閉経後にエストロゲンが減少し、骨の新陳代謝のバランスが崩れて骨量が低下しやすくなると言われています.

骨粗鬆症は病気のきっかけがあるわけではないので徐々に進行していき症状がわからないという特徴があります.気づいた時には骨がスカスカだった,いつも間にか背中の骨が潰れていたということも少なくありません.

正常

骨粗鬆症

Ström O, Borgström F, Kanis JA, et al. Osteoporosis: burden, health care provision and opportunities in the EU: a report prepared in collaboration with the International Osteoporosis Foundation (IOF) and the European Federation of Pharmaceutical Industry Associations (EFPIA). Arch Osteoporos. 2011;6:59-155.より引用

2.骨粗鬆症を放置すると

 骨粗鬆症によって起こる二大疾患は①大腿骨近位部骨折(股関節の骨折),②脊柱の椎体骨折(背骨の骨折)と言われています.これらの骨折は患者さんの日常生活動作を著しく低下させ,さらには死亡率を高めるとも言われています.

またこれらの骨折は1度起こると2度目の骨折を生じる確率が高いとされさらに日常生活動作を制限し寝たきりリスクが高くなります.このように次々に骨折することを骨折連鎖やドミノ骨折とも言われます.これらは65歳を過ぎたら骨折連鎖のリスクが上がることが高くなり,最初の骨折から1年以内に2回目の骨折する確率が高いとされているため早期に治療介入をする必要があります.

背骨の骨折は保存療法を行うことが多く,一度潰れた背骨は元には戻らないため2回目,3回目と骨折することで背中や腰がさらに曲がってくる可能性があります.

 

また股関節の骨折である大腿骨近位部骨折では原則手術での治療になり,長期の安静などから寝たきり,認知症になるリスクが高くなることが知られており,その治療費や介護負担が発生し家族にも経済的負担がのしかかってくるとも言われています.

骨粗鬆症という病気は多くの方は聞いたことがあると思います.アンケート(阿部 大介ほか. わが国における閉経後女性の骨粗鬆症に対する意識・実態に関するWebアンケート調査. 日本骨粗鬆症学会雑誌. 5(2):2019,p.267-276.)では骨粗鬆症を知らないと答えた人は0.7%と低く認知度は十分にあると考えられます.また6割近くの人が「将来なる病気で,今は大丈夫」と考え,2割の人は「自分がなる可能性がない」と答えているそうです.

日本には約1400万人の骨粗鬆症患者がいると推計されていますが,その治療率は低く250万人程度とも言われています.そのため骨粗鬆症にもかかわらず未治療の方が多くいらっしゃるということです.上記のアンケートでは約4割の方が骨粗鬆症の検査を受けたことがないと回答され,その理由は①受けに行くきっかけがないから,②気になる症状がないから,この2つが圧倒的な回答を占めていました.

 

まずは検査をしないと自分が骨粗鬆症かどうかがわかりません.当院でも骨密度の検査を受けることが出来ますので気になる方は一度主治医に相談してみてください.

 

当院での骨密度の検査はDXA(二重エックス線吸収法:Dual-energy x-ray absorptiometry)という方法を使用しており,2種類の異なるエックス線を用いて骨密度を測定することができ,短時間でかつエックス線被ばく量も少ないため体に負担が少ない特徴があります.

診断結果には主に骨密度やYAM値,Tスコアなどが用いられます.

YAM値とはYoung Adalt Mean:若年成人平均値の略語で測定した骨密度を若い人の骨密度の平均値で割った数値を%表示したものです.80%以上を正常,70%以下が骨粗鬆症と診断されます.Tスコアは若い人の平均値から標準偏差を用いてどれだけ離れているを示したものになります.Tスコアが-1.0SDで正常値,-2.5SD(YAM値で約70%)で骨粗鬆症と診断されます.

Zスコアは同年代との比較になり閉経前の女性や若い男性の骨粗鬆症の診断に用いられることがあります.

当院の検査結果ではTスコアの記載場所にあらかじめ換算した%YAM値を記載していますのでTスコアの箇所をご確認ください..

病院により検査結果の表示が異なりますので主治医にお気軽にお聞きください.

 

早めに対策をすることで未来の骨折を防ぎ健康で充実した人生を送ることが可能になります.長く自分の脚で歩くためにも早めの対策をしていきましょう.

3.骨粗鬆症の治療について

骨粗鬆症と診断された場合には薬物治療が開始されます.薬物治療には主に①骨が壊れるのを防ぐ薬(骨吸収抑制剤),②骨を造る薬(骨形成薬),③ビタミン薬の3つがあります.

 

近年の治療指針では骨粗鬆症に最も効果があるとされる骨形成薬(テリボン,ファルテオ,イベニティなど)を行ってから骨吸収薬(プラリア)へ移行する流れが推奨されています.この流れが一番効率よく骨密度を改善させる効果があると言われています.

 

治療方針については血液検査や骨密度,その他検査を複合的に判断し治療内容を決めていきますので主治医にご相談ください.

 

骨粗鬆症の治療で問題となることは治療の継続率と言われています.その継続率は1~2年で約50%程度です.骨粗鬆症の原因となる性ホルモンの減少は生涯改善することはないため,骨粗鬆症は生涯にわたり治療を継続する必要があります.治療が続かない理由として治療の実感がないことや治療効果の幅があまりないことなどが挙げられます.また自己注射では副作用や治療費費の負担なども治療継続が困難の理由にあります.

 

骨粗鬆症の治療は急激に改善するものではなく年単位でゆっくりと維持改善していくという特徴があります.改善率も1~2%程度です.股関節大腿骨頚部の骨密度が6%上がると同部位の骨折リスクが46%軽減,椎体骨折に至っては72%軽減するという報告(Bouxsein ML, Eastell R, Lui LY, et al. Change in Bone Density and Reduction in Fracture Risk: A Meta-Regression of Published Trials. J Bone Miner Res. 2019;34(4):632-642.)もあるため長い目でみながら治療を継続するようにしていきましょう.

日本では過去30年間の大腿骨頸部骨折の数は右肩上がりで増加しており,今後も団塊世代の人が高齢になるにつれてその数は2040年ごろまで増加すると言われています.また平均寿命の増加に伴い超高齢社会を迎えるため大腿骨頸部骨折が当たり前の世の中になるとも言われています.

骨折が起こってから骨粗鬆症に翻弄されるのではなく事前に対策・治療を行い健康寿命を長くして実りのある人生を送っていただきたいと思います.





4.骨粗鬆症の対策と予防

  食事による骨粗鬆症予防について

 

骨粗鬆症の治療は薬物療法のみではなく食事や運動も重要になり,お薬+食事+運動が骨粗鬆症の3本柱と言われています.

 

①食事による骨粗鬆症予防について

 

骨を作る主な成分であるカルシウムやそのカルシウムを吸収する手助けをするビタミンD,骨の形成を助けるビタミンKやタンパク質などをとることが重要とされています.

控えた方が良いとされる食べ物としてはリンを多く含む食品(カップラーメン,ハムなどの加工食品),カフェインを多く含む食品,アルコールなどがあります.リンは取り過ぎるとカルシウムの吸収を妨げます.特に加工食品のリンは無機リンといって吸収されやすい傾向にあるので摂取を控える方が良いとされています.リンは多くの食品に含まれることから過剰摂取になることが問題とされているため注意が必要です.

 

骨粗鬆症の方向けの主な栄養素の摂取量

 

1)カルシウム 700~900mg

□乳製品

□小魚

□緑黄色野菜

□大豆・大豆製品

 

牛乳(1杯200g)           220mg

ヨーグルト(100g)         120mg

三角プロセスチーズ(1個17g)      99mg

イワシ丸干し(1尾30g)       132mg

乾燥ちりめんじゃこ(大さじ1杯10g) 220mg

納豆(1パック:30~50g)         45mg

 

カルシウムの推薦摂取量は厚生労働省からは男性で700mgから800mg、女性で650mgと設定しています。

また骨粗鬆症の予防には1000〜1500mgの摂取が必要とも言われています。

 

しかし厚生労働省の調査ではカルシウムの一般食品からの1日の摂取量は504.9mgと言われており基本的にカルシウムの摂取不足と言われています。1000〜1500mgを摂取するのは大変ですのでまずは700mgを摂取することを目標にしていきましょう。

2)ビタミンD 10~20μg

ビタミンDはカルシウムの吸収を促進させ,骨を丈夫にします.野菜や穀物,豆,イモ類にはほとんど含まれていません.魚には多く含まれておりカルシウムも豊富なためおすすめの食品とされています.

 

日光(紫外線)にあたることで皮膚でビタミンDは生成されますが冬場が紫外線の量が少ないためビタミンDは不足がちになります.1 日 15 分程度の適度に陽に当たることを意識しましょう。

 

□魚

□きのこ

 

イワシ丸干し(1尾30g)  15μg

サンマ(一尾100g)   14.9μg

鮭   (1切れ80g)   25.6μg

かつお刺身(1人前100g)  4μg

干しシイタケ(2個6g)  0.8μg

きくらげ(2枚2g)     1.7μg

3)ビタミンK 250~300μg

ビタミンKは骨形成にも必要なビタミンで、骨に存在するオステオカルシンというたんぱく質を活性化し、カルシウムを骨に沈着させて骨の形成を促進させる作用があります。

 

□納豆

□緑色野菜

 

乾燥カットわかめ1人分(10g)1,600μg

ほうれんそう(1株:20g)   270μg

納豆(1パック:30~50g)       870μg

 

血液の抗凝固剤(ワーファリンなど)などを飲まれている方はビタミンKの取り過ぎは薬剤の効果が弱まる為注意をしてください.

4)タンパク質 男性60~65g 女性50g

□肉

□魚

□卵

□豆

□乳製品

 

鶏むね肉(100g)          25g

イワシ丸干し(1尾30g)       10g

サンマ(一尾100g)         23g

鮭   (1切れ80g)       24g

かつお刺身(1人前100g)       25g

乾燥ちりめんじゃこ(大さじ1杯10g) 4g

卵 (1個65g)          7.9g

納豆(1パック:50g)       8.5g

木綿豆腐(100g)          7g

牛乳(1杯200g)           6.6g

ヨーグルト(100g)         3.6g

三角プロセスチーズ(1個17g)    3.5g

『何を食べていいのか分からない』『今の食事でどれくらい摂取しているのかわからない』という疑問があると思いますので,その時には当院の管理栄養士による栄養指導を行うことができますのでお気軽に主治医にご相談ください.

また不足している分をビタミン補助剤として内服することもできますので合わせてご相談ください.

興和株式会社の患者さん資料より引用
https://medical.kowa.co.jp/asset/pdf/docs/1701.pdf

  運動による骨粗鬆症予防について

②運動による骨粗鬆症予防について

運動は、骨細胞の成長因子の分泌を刺激し、骨格系の血液循環を促進し、栄養素の吸収と代謝を促進することで、骨代謝を改善します。さらに、運動は筋肉への負荷を増加させ、骨密度と骨強度を高めることで、骨格系の適応変化を刺激し、骨の健康を改善すると言われています.


骨は機械感受性組織であるため、ウォルフの法則に従って骨のリモデリングが活性します.ウォルフの法則とは、「骨は加えられた力に最も適した形へと構造を発達・適応させる」という法則です.そのため骨密度を上げるためには、骨に適切な負荷(機械的刺激)を与える運動が有効であると考えられています。これは、骨が負荷を受けることで、骨を作る細胞(骨芽細胞)が活性化し、骨形成が促されたり,筋肉への刺激が局所的なホルモン(IGF-1)の放出を誘発し、これが骨芽細胞と破骨細胞のバランスを調節して骨吸収を抑制し、骨形成を促進するしたりすることが分かっています.(Han D. S., Liang Q. Y., Shi X. F. (2025). Resistance exercise activates Piezo1/AMPK/PGC-1α to alleviate disuse skeletal muscle atrophy in mice. Chin. J. Biochem. Mol. Biol. 41 (1), 136–146.)

運動は、これらの力の骨形成効果と副作用がないことのため、骨粗鬆症の予防に広く推奨されています.

1)骨密度向上に効果的な運動の種類とそのメカニズム

 

◇ ウェイトベアリング運動(体重負荷運動)と有酸素運動

ウェイトベアリング運動は、重力と体重を利用して骨に物理的な刺激を与える運動で、骨密度の向上に最も効果的とされます。特に、骨折のリスクが高い大腿骨や脊椎などの骨密度維持・向上に重要です。

◇筋力トレーニング(抵抗運動)

筋力トレーニングは、筋肉が収縮する際に腱を介して骨を引っ張り、骨に刺激を与えることで骨密度の向上を促します。また、筋肉を鍛えることで転倒予防になり、結果として骨折のリスクを減らす効果もあります。

◇バランス運動

加齢に伴うバランス感覚と柔軟性の低下は、転倒や骨折のリスクを高めます。骨密度の維持・向上に直接的というよりは、転倒による骨折を予防するために非常に重要になります。

2)なぜ運動が骨を強くするのか?

 

◇骨の刺激効果と骨芽細胞の活性化

 

運動は骨組織に機械的負荷をかけ、骨形成関連遺伝子の発現が活性化され、骨形成の活性が増強されます。また破骨細胞の活性をさらに抑制し、総合的に骨代謝を骨形成に有利な状態へと移行させます。

さらに、骨は機械的負荷に対して、急速に飽和し、感受性を回復するという反応を示すためむやみやたらに負荷時間を延長したり回数を増やしても骨形成効果は比例して高まらないとされています。短時間 (60 分以下) の機械的負荷を定期的に、十分な休憩と組み合わせることで、骨細胞の機械感受性を効果的に維持し、それによって骨代謝反応を高めることができます。

 

骨密度の改善には運動の継続が重要とされていますが機械的負荷が長期間にわたって一定のパターンで維持されると、骨細胞の機械感受性は徐々に低下し、「脱感作」現象いわゆる『慣れ』につながり、トレーニング単位あたりの骨形成効率が低下すといわれているため運動強度の変化が必要になります.

 

したがって、運動するポイントとしては、単に運動時間を延長するのではなく、適度な運動時間、定期的な頻度、そして定期的な休息などの調整を重視する必要があります。そうすることで、『慣れ』を回避し、骨リモデリングの効果を最大限発揮することができます。

 

   水泳のような浮力が働く運動は、この機械的刺激が少ないため、骨密度向上への効果はウェイトベアリング運動に比べて低いとされていますが,怪我のリスクを最小限に抑えられるため、有酸素運動の理想的な選択肢の一つでもあります。

また長期にわたって水泳を行う高齢女性は、運動不足の対照群と比較して、全身の骨密度が有意に高く、筋力と柔軟性も向上することが報告されています.(Ubago-Guisado E, Sánchez Sánchez J, Vila Maldonado S, Gallardo L. Effects of Zumba® and Aquagym on Bone Mass in Inactive Middle-Aged Women. Medicina (Kaunas). 2019 Jan 21;55(1):23.)

 

◇神経内分泌調節

運動は複数のホルモンを介して骨代謝恒常性を調節します.

 

 □エストロゲン様作用:中等度の有酸素運動では、エストロンが多く作られこれらはエストロゲン受容体に結合し、破骨細胞を介した骨吸収を阻害します.

 

 □カルシウム・リン酸代謝の調節:運動は活性ビタミンDの生物学的利用能を高めます。これにより腸管でのカルシウム吸収が促進され、副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が抑制され、骨量の維持に寄与します.

 

◇骨微小環境の最適化

運動による骨灌流の改善は比例すると言われています.

 

 □血管新生効果:持久力運動は、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管新生因子の発現を増大させ、骨組織の微小血管密度を増加し、骨マトリックスへのミネラル輸送を促進します.(Xiao ZF, etc. Osteoporosis of the vertebra and osteochondral remodeling of the endplate causes intervertebral disc degeneration in ovariectomized mice. Arthritis Res Ther. 2018 Sep 10;20(1):207.)

 

 □代謝老廃物の除去:骨格筋のポンプ作用が強化されると静脈の流れが改善され、骨間質液中の代謝副産物や炎症性サイトカインの蓄積が減少し、骨形成微小環境が最適化されます.(Geng D, Li X, Shi Y. Effect of exercise intervention on health-related quality of life in middle-aged and older people with osteoporosis: a systematic review and meta-analysis. PeerJ. 2025 Jan 31;13:e18889.)

 

◇筋骨格系による保護

運動は筋肉の機能を高め、骨格を保護する生体力学的緩衝材を作り出します。

 

  □筋力強化:抵抗運動は、筋肉の断面積と最大トルクを大幅に増加させます。力の伝達が改善されることで日常での衝撃などの負荷が減少し結果として骨への機械的ストレスが軽減されます.また適度なストレスとなることで骨格強度が向上します。

 

  □神経筋制御の改善:バランストレーニングは神経可塑性を促進させ、協調性を改善し、片足立ちの時間を延ばし、転倒のリスクを軽減します.

 

◇運動の持続時間と頻度

 

運動の目安としては1時間(60分)を目安に有酸素運動や筋力トレーニング,バランストレーニング,ストレッチを組み合わせて行うことが重要です.(Zhang W, Li X, He Q, Wang X. Effects of exercise on bone metabolism in postmenopausal women: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Front Endocrinol (Lausanne). 2025 Sep 15;16:1597046.)

 

例えば

①有酸素運動は40分で内訳は

     5分のウォームアップ(例:ゆっくりしたウォーキング)

     5分のクールダウン(例:ストレッチ)    

     コアとなる有酸素運動は30分程度  合計40分

 

②筋力トレーニングは10分で、複数の主要筋群を鍛えます。(スクワット,つま先立ち,段差昇降など)

各エクササイズは1セット10~15回で2~3セット行い、セット間には1~2分の休憩を取ります.

③バランスと柔軟性のトレーニングは、1セッションあたり10分行います.(片足立ち,ストレッチ,ヨガなど)

 

初めて行う場合などはまずは運動を習慣づけることが重要になるため自分ができる範囲で行ってください.必ず1時間やらないといけないというわけではありません.まずはウォーキングだけでも毎日できるような環境を作ることが大切です.1日あたりの歩数が多い人ほど骨が健康であるとの報告もあります.(Yin S, etc. Walking more, not faster, is associated with bone health in China of community-dwelling older women:A cross-sectional study. Prev Med. 2023 Oct;175:107722. )

またウォーキングの速度は膝などに問題がなければ早歩き(時速6.4km)を目標にすることで筋肉の活動が促進され,骨が強化される効果が高まります.また早い人ほど骨粗鬆症の発症リスク・骨折リスクともに低くなることが報告されています.(Hu Q, etc. Walking pace and its association with osteoporosis and pathological fractures: insights from UK biobank. Front Endocrinol (Lausanne). 2025 Aug 26;16:1635999.)

運動が習慣化し,慣れてくれば徐々に強度と時間を長くして行くようにしましょう.

ウォーキング60分,筋トレ20分,ストレッチ20分など.朝はウォーキング,昼は筋トレ,夜のお風呂上りにストレッチなど1日の中で分けても大丈夫です.大事なのは何度も言いますが『続けること』です.


 

◇継続性の重要性

骨密度の改善には、少なくとも6か月程度の継続的な運動が必要とされています。運動をやめてしまうと効果は失われたり,骨密度,筋力の低下を示したとの報告(Gombarčíková T, etc.The effect of physical activity intervention and detraining on postmenopausal osteopenia and osteoporosis: a systematic review. Front Sports Act Living. 2025 Sep 22;7:1655404.)もあるため、日常生活の中で無理なく続けられる運動を選ぶことが肝心です。理想的には週に3回以上、定期的に行うことが推奨されます。

 

◇運動前の注意点

すでに骨粗鬆症の診断を受けている方や、関節痛、既往の骨折歴がある方は、運動を始める前に必ず整形外科医に相談し、個々の身体の状態に合わせた適切な運動の種類や強度について指導を受けることが重要です。転倒や骨折のリスクを避けるため、無理のない範囲で安全に行いましょう。

5.骨粗鬆症と変形性膝関節症

変形性膝関節症の主な原因は、加齢、性別,遺伝的素因、メタボリックシンドローム、あるいは外傷などが挙げられています.また過去の膝の外傷は、膝の変形性関節症のリスクを3.86倍に増加させることが報告されています.その他にも関節の反復使用、骨密度、筋力低下、関節弛緩,頻繁なしゃがみ込みも膝OAの危険因子とも言われています.(Jang S, Lee K, Ju JH. Recent Updates of Diagnosis, Pathophysiology, and Treatment on Osteoarthritis of the Knee. Int J Mol Sci. 2021 Mar 5;22(5):2619.)

 

骨密度と変形性膝関節症の関係はこれまで様々な意見があり骨粗鬆症が変形性膝関節症の原因になるといった報告や逆に関節変形を減少させるなど意見が分かれていました.

 

近年の研究によると欧州の人ではありますが遺伝学的に予測された大腿骨頸部骨密度低値は、股関節および膝関節OAと有意に関連していたが、他の部位特異的なOAとは関連していなかった。遺伝学的に予測された腰椎骨密度低値は、あらゆる部位のOA、膝関節OA、および股関節OAと有意に関連していたと報告されています.この研究では、骨粗鬆症が変形性膝関節症リスクの上昇と因果関係にある可能性を示唆しており、骨密度を高める対策が変形性膝関節症の予防に有効である可能性を示しています。(Qu Y, Chen S, Han M, et al. Osteoporosis and osteoarthritis: a bi-directional Mendelian randomization study. Arthritis Res Ther. 2023;25(1):242. )

これらのことからも骨粗鬆症を予防していくことが健康な膝を保っていく一つの選択肢になる可能性があります。

6.骨切り術に対する必要性

当院では骨量減少が始まるとされる中年(45~64歳)以上の膝骨切りを実施する方に対して骨粗鬆症の検査を実施しています.具体的には骨密度の検査や血液検査(骨を作る細胞や壊す細胞に問題がないか)などを行っています.

 

検査により骨粗鬆症と診断された場合には自己注射や内服治療が開始されますが,第一選択として自己注射による治療を行います.自己注射は内服薬よりも骨密度を増加させ骨の質を向上させる効果が高く骨折リスクを軽減が期待できるとされています.その他の効果としては手術時に使用する人工骨と骨との結合性が高まる効果(Kamo K, Miyakoshi N, Kasukawa Y, Nozaka K, Sasaki H, Shimada Y. Intermittent weekly administration of human parathyroid hormone (1-34) improves bone-hydroxyapatite block bonding in ovariectomized rats. J Bone Miner Metab. 2010 Nov;28(6):634-40.)が期待できたり,膝軟骨を改善させる効果がある(Li G, Liu S, Xu H, Chen Y, Deng J, Xiong A, Wang D, Weng J, Yu F, Gao L, Ding C, Zeng H. Potential effects of teriparatide (PTH (1-34)) on osteoarthritis: a systematic review. Arthritis Res Ther. 2023 Jan 6;25(1):3. )と報告されており,骨切り手術の治療効果を高めるメリットがあります.

 

これは自己注射が骨形成を高める作用があるためとされており,内服薬では骨形成を高める効果がないため上記のような効果は期待できません.そのため術後,骨粗鬆症の自己注射を始められた方は可能な限り継続してもらうことにより骨の質が向上し骨粗鬆症による骨折を予防することと膝軟骨が改善することが期待できます.

 

また自己注射は生涯に実施できる期間が決められているため,一度実施し断念したあとに期間を開けすぎると再度実施できない可能性があるため,骨粗鬆症のことを考えるとやめずに継続することをおすすめします.自己注射と言われると難しいイメージがありますが具体的にはお腹にカートリッジ(ボールペンのようなもの)を当ててボタンを押すだけの簡単な方法で実施することができます.痛みもチクッとする程度です.

 

1年後の膝軟骨の改善や良好な術後経過,骨密度の改善のためにも治療をできる限り継続していきましょう.

7.まとめ

​ 骨粗鬆症は予防がとても重要になります.日頃から運動習慣をつけ,食事を管理することで骨密度を維持することで膝の変形も予防できる可能性があります.ですが骨粗鬆症になり膝の変形が進行すると運動することによる痛みが生じ,十分な負荷を骨に与えることが困難になるため十分な治療効果を得にくくなる可能性もあります.

膝関節の痛み→運動が出来なくなる→骨への刺激が少なくなる→骨密度の低下→膝関節の変形の進行→膝関節の痛みの悪化 という負のスパイラルから可能な限り脱却する必要があります.

 

治療として膝の骨切り術を行い膝の痛みを改善し運動することができる状態を作ることも一つの選択肢として挙げられます.

膝骨切り術を行う→膝関節の変形を修正させ膝関節への負担が減少→膝関節の痛みが改善→運動ができる→骨への刺激が得られる→骨密度の増加→運動が継続できる という正のスパイラルへ持っていくことで生き生きとした生活を送ることを当院では目指しています.

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